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イブ、イブ、イブ

元日は新品の歯ブラシ、ボディタオル、下着をおろすのが習慣だ。
これらはどれも年末に調達するのだけれど、下着を買いにいく日は気が重い。
商業施設にある下着屋さんでも、スーパーマケットの衣料品階の一角にある下着売り場でも、下着売り場に身を置くこと自体が50代半ばを過ぎた今でも落ち着かない。もっと言えば、だれの下着を選ぶのでも、その姿を見られたくない。発表することではないが、選ぶのはベージュや白、クリーム色のいたってシンプルな品々であるから、たとえだれかに見られたとしても、ギョッとされるような、変わった類をもとめているわけでありません。念のために。

そもそも子どもの時分から、下着たるやひと様にお見せする代物ではないと教えられ、スカートめくりをする男子には本気になって怒ったものだ。そしていつしか毛糸のパンツやらブルマで下着を覆うことになる。スカートをめくられても慌てないために。気兼ねなく鉄棒で足掛けまわりをするために。体を冷やさないために。年齢が進むとさらに必需品であるブラジャー問題が浮上する。これもまた体操着やシャツから透けないようにと、先生から厳しく指導された。それだからか、「透けにくい」これは服を選ぶときのポイントの一つにもなっている。

こんな具合にひと様に見られないようにしてきた下着たちを、なぜに、ひと様の前で選び、試着し、選んだ品々をレジにて披露しなければならぬのか。この一連の流れをもっとコソっとやりたい……、できればだれか代わりに買ってきて欲しい。胸の片隅に違和感と願望を抱えながら下着を買い求めてきた。振り返ればカタログ通信販売とのであいで違和感を解消した時代もある。
ここ数年は娘たちを従え、いや、娘たちのあとについて下着屋さんへ赴き、娘たちのものに紛れ込ませて買い求めるという手段を覚えた。
そこで驚くのは、下着を選ぶ女性たちに少しも躊躇うところがないことだ。
「これ、カワイイ!」
まるでケーキを選んでいるかのように色とりどりの品々を吟味している。時代は変わった。もしかしたらわたしが知らなかっただけで、以前から下着屋さんとは女心をくすぐるような場であったのかもしれない。

昨年末。娘たちと予定が合わず、一人で下着屋さんへ向かった。
懐かしい違和感を感じつつ、しかし、慣れている風を装いながら店内をみてまわっていたら、
「年末のこの時期は赤色が人気なんですよ」
60代半ばぐらいの店員さんが落ち着いた赤色のブラジャーを勧めてきた。赤なんて買ったことありませんから。難色を示してみるも歳を重ねてきた肌には落ち着いた赤がいいのだと、引き下がらない。

2021年 元日。下着の抽斗を開けると妙に堂々とした赤色が出番を待っている。……、ええい、今年は還暦イブイブイブだ!

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