照れミーティング
このたび、テレミーティングに参加した。一つの場に集まらずともパソコンやスマートフォンを使い、さながら会議室で打ち合わせをしているような、自宅での会合。
これまでもスマートフォンのフェイスタイムやlineでビデオ通話を利用してきた。高齢の両親には週に一度連絡をするが、両親の家にいく間があいてしまうと、電話だけでは両親の本当の様子がわからない。
「あらっ、なんだかいつもと声が違うんじゃない」 「そう? いつもこんな調子よ。歳をとるとこんなものなのよ」 母の声がいつもとは違うこと気づきはする。が、素っ気なくこう言われると次の言葉につまる。切りぎわに、無理しないで体調に気をつけてよ。さりげなく注意喚起の言葉を添えながら、母の声に対する違和感は勘違いだったかと、いいように思い込もうとするわたし。されど、高齢になっても親は親なのだ。娘に要らぬ心配をさせまいとその場では本当のことを言わず、後日あのときは調子がよくなかったと、母はケロリと告げたりする。
その点、ビデオ通話はごまかしがきかない。スマートフォンの画面に映る両親の顔をみては安心したり、気になって慌てて顔を見に行ったり。いずれにしてもITの発達は高齢の両親の状態を知る手立てとして、おおいに役立っている。ただし、このビデオ通話を利用するのは身内に限る。画面に小さなサイズで映る自分の顔ったら……。なんだ、このシワ! なんなんだ、このほうれい線! で、冒頭のテレミティーング。
お相手は、家のリノベーションをお任せするヤマザキさん。30代前半ぐらいだろうか。パパ歴3年目らしい。スラリと背が高く小顔。小さな面積の中に目と鼻と口、それぞれのパーツが主張している。はじめてうちを訪ねて来たときの印象は、あれほどは濃くない平井堅。
ノートパソコンを使ってのテレミーティング。画面のサイズがスマートフォンよりはるかに大きい。ヤマザキさんとは何度かお会いしているが、画面越しは初めて。テレミーティングも初めて。夫とわたしは白壁が背になるソファーに座り、パソコンの前で待機した。
打ち合わせ開始時間になると、大きな木の机のまえに座るヤマザキサンが画面に現れた。
「おはようございます。聞こえてますか」
「おはようございまーす。聞こえてますよ」
若い娘のように思わず手を振る。そしてハッとした。さして小さくないサイズの囲みの中で手を振るひとが見えたのだ。ぎゃー、どこのおばさん?
ヤマザキさんが凝視しているのは、画面いっぱいに映るこのおばさん。いや、わたしじゃないの。と思ったとたん、わたしの頬がバラ色に染まったのは、ヤマザキさんに恋したからではありませんよ。
決して誤解するでないぞよ、ヤマザキさん!
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