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この街が好きだ。辞めたくない。

面接官「きみは、なぜ市役所で働きたいのかな?」

私「自分が育ったこの街を、支えながらもリードするこの組織で働きたいと思っています」

かつて、こんなやりとりをして最終面接を合格し、入庁した。

あれから14年が経つ。いつからか、この街をリードするはずの市役所は、理想を、ビジョンを描くのを辞めてしまったと感じる。

アジェンダやタスクを処理することに特化してきて、理想を語らず、研究をせず、探究をせず、目に見えることにだけ向き合う。そんな組織になってしまったと感じる。(もちろんそうではない素晴らしい方々も局所的にいる、が故に尚のこと残念なのだ)

この街が好きだ。港、官庁街、都心部、歓楽街、商店街。いとおしい街並みを見ていると、言葉にならない想いがこみ上げてきて、涙が出てくる。笑って悩んで喜んで苦しんで、いろんなことがあった。

本当は、辞めたくない。しかし、理想を描かなくなったこの組織で、あと30年働き続ける未来が描けなくなってしまった。自分が自分でなくなってしまうかもしれない、そんなふうに感じた。

街に貢献したくて、市役所で働くことにした。でも、市役所に貢献すること≠街に貢献すること という風に、いつからか方程式が変わってしまったように思う。

街に貢献することを軸にして懸命に働いた。チャレンジをして、研究を重ね、試行錯誤を繰り返し、おかげさまで書籍も執筆できた。
ありがたいことに外部のさまざまな方々から請われて、いろんな依頼を受けた。貢献し、自分を介して最終的にはこの街を好きになってもらいたいという一心で取り組んできた。

しかし、組織の中では one of them という判断が下った。成果を上げようが上げまいが、専門性があろうがなかろうか、チャレンジしようがしまいが、平等に扱う。そういう理屈だ。
それは本当に公平だろうか。消費税制度のようにみな等しく課税する水平の公平性もあるが、累進課税のように、違うものを違うように扱う垂直の公平性もある。

みんな「同等」だけど、「同じ」ではない。人も組織も幸せになれるような意思決定が、もっと考えられるのではないだろうか。

ある人が言っていた3択がシンプルで刺さった。

染まるか、変えるか、辞めるか。

10年以上働いても、染まることができなかった。
日ごと変化を嫌う組織に対して、変わっていくイメージが描けなくなった。
そんな私に、もはや選択の余地はないのかもしれないな。


※ この文章は、役所人生最後となる異動内示を言い渡された、2022年3月に書いたものです。


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