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【400字小説】しゃもじ

善光寺のびんずる様が白昼堂々盗まれた
白昼夢から、もうどれくらい?
ケイヒは「あったね、そんなこと」と
10年くらい前のテンションで言った。
何も突っ込めなかったエイトは、一体どうやって、
ひとりであんなに大きなものを
担いで逃げれらたのか、もう一度考える。

人間の目は簡単に欺けるのだなあと思い知らされた。
防犯カメラ映像を見た捜査員も
思わず二度見したに違いないとエイトは。

「それよか、飯にしよう」とケイヒが
タバコを揉み消して言う。
そこでエイトはハッとする。
炊飯器を開けるとそこには何も入っていなかった。

ケイヒに謝罪混じりに伝えると
「そういう時ってさ、開けた瞬間、ちゃぽ~んって音、
脳内でしない?」と意味のわからないことを。
でも、エイトは「そうだね」と愛想笑い。

ケイヒはやさしくて一緒にいると心地よい。
多分、ずるずると結婚すると予感。
なのに、そんな在り来たりな人生ごと
誰か強引に連れ去ってと、願ってしまった。

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