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【400字小説】水溶性

雨がカラカラ降ってる。
「東京って砂漠なの?」と
ミイコはひとりで呟いて、誰も居ない部屋で。

恋人はもともといない。
8年もいない。
YouTubeでヨガをやろうとスマホを持つ。
でも突然イラついて、それを壁に向かって投げた。
マイルス・デイヴィスのポスターが破れかけてる。
心は壊れかけのRadioな世代。
もうとっくに結婚もできないだろうし、
諦めたくはないが恋人だってできないだろうし。

にじんだ心、美しく描いた
水彩画に涙を落としてしまって。

部屋にも雨が降ってきた。
透明のビニール傘を差すと、
ないはずの雨音が弾ける音がした。
穴は空かない。
気持ちの穴から絵の具がにゅるにゅると押し出される。

精神科の駐車場がいっぱいだった記憶が突如。
あの時も雨が降ってきて、びしょ濡れに。
あの日を繰り返したくないから、
部屋でもこうして傘を準備する愚行がやめられない。

来週、東京に行く。
雨なんか降らない。
カラカラに乾いているんだろう、街も人も。
偏見!

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