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【#ゲームの作り方】「将門公記」デザイナーズノート

はじめに

 ボードゲーム界には、開発過程を「デザイナーズノート」で公表する慣習があります。

 筆者も先週noteで初の作品将門公記しょうもんこうきを公開しましたので、デザイナーズノートを書いてみました。

タイトル

 軍記物語「将門記しょうもんき」と同名のゲーム(太平記たいへいきシステムでおなじみの中嶋真氏デザイン)がありますので、名前がかぶらないように「将門公記」と名づけました。

きっかけ

 初めは、note記事で文章だけのゲーム(ゲームブック)を作る方向を模索しました。
 (その検討過程は、5/6の記事で説明しています)

 「シーンを全てあらかじめ公開する」「次のシーン選択は乱数で決める」と単純化していくと、すごろくと要素が同じであることに気づきます。
 (参考とした「すごろく第三帝国」は、4/29の記事で紹介しています)

 そこで得られた結論は、「すごろく(や、人生ゲームなどの派生ゲーム)は、ゲームブック形式で作ることができる」でした。

 その結果、このゲームはすごろくとしてもゲームブックとしても遊べるように完成しました。

すごろくか?ゲームブックか?

 どのシーンにも6個の選択肢があって、「何個先のマスに進むか」を「無作為に」選択するルールのゲームブックを作ったら、すごろくを作ったことと同じ。

 「1個先のマスに進むを3回くり返す」「1個先のマスに進んでから2個先のマスに進む」「2個先のマスに進んでから1個先のマスに進む」「3個先のマスに進む」は、全て同じシーンに集約されるので、現実的なシーン数に収まります。

 さらに、特定のシーンにだけ「ふりだしに戻る」や「ショートカット」などのイベントを作れば、やりこみ要素になる。

分析

 おすすめの遊び方をデザイナー自身が紹介することで、設計思想が見えることがあります。

 このゲームでは乱数により自動的に移動先が決まるので、基本的には迷うことはありません。
 唯一の選択肢は、「上野国府こうずけこくふ」から「平貞盛たいらのさだもり」へのショートカットを狙える「俵藤太たわらのとうた討伐」です。

 俵藤太討伐を行なうべきかどうかをポイントにして、各ターンの状況を整理したいと思います。

ターン1 (939/天慶二年霜月第三週)

ターン1開始時の存在確率表
  • ヒストリカルノート

天慶2年11月21日、常陸国人藤原玄明と常陸介藤原維幾との対立に将門が介入。将門が手勢1000人余で国府軍3000人を打ち破り、常陸介藤原維幾は降伏した。

平将門 - Wikipedia

ターン2 (939/天慶二年霜月第四週)

ターン2開始時の存在確率表

ターン3 (939/天慶二年師走第一週)

ターン3開始時の存在確率表

 このターンに上野国府にいる8.33%のプレイヤーは、かなり有利です。

 このターンでは上野国府からいきなり上総国府に進める確率が1/6あり、その場合はターン4とターン5のいずれかで、2/6の確率で完全勝利します。
 その他のケースも合計すると完全勝利の確率は42.65%もあり、敗北する確率は2.47%だけです。

 しかし、俵藤太討伐を行えばもっと有利です。ターン3では実に4/6の確率で藤原秀郷ふじわらのひでさとに進むことができます。
 平均すると完全勝利の確率は56.48%、限定的勝利の確率も34.26%ありますので、迷わず討伐を行なうべきでしょう。

ターン4 (939/天慶二年師走第二週)

ターン4開始時の存在確率表(ターン3に俵藤太討伐を行った場合)

 このターンに上野国府にいる35.65%のプレイヤーも、やはり俵藤太討伐を行なうべきです。

 俵藤太討伐を行なわない場合は、完全勝利の確率は19.44%で、敗北する確率は3.68%。
 俵藤太討伐を行なう場合は、完全勝利の確率は25%で、限定的勝利の確率も47.22%あり、敗北する確率は2.49%です。

  • ヒストリカルノート

12月11日に下野に出兵、下野守藤原弘雅・大中臣完行らは将門に降伏。

平将門 - Wikipedia

ターン5 (939/天慶二年師走第三週)

ターン5開始時の存在確率表(ターン3と4に俵藤太討伐を行った場合)

 このターンに上野国府にいる46.06%のプレイヤーは、俵藤太討伐を行うかどうか迷うところです。

 俵藤太討伐を行なわない場合は、完全勝利の確率が7.10%で、敗北する確率は5.45%。
 俵藤太討伐を行なう場合は、限定的勝利が38.89%あるものの、完全勝利の確率は5.56%だけで、討伐を行なわない場合よりも低いのです。
 負ける確率については4.97%と大差ないので、気にすることはないでしょう。

 デザイナーとしては、このあとターン6とターン8に上総国府にいることで完全勝利へのチャンスがあるというところがポイントで、このターン5では俵藤太討伐を行なわないことを推奨します。

 俵藤太討伐を行なって失敗した場合には、ターン8に上総国府には行けないので、完全勝利の確率はゼロです。
 俵藤太討伐を行なわなければ、ターン6では16.67%の確率で、ターン8では25.93%の確率で、上総国府に行けるチャンスがあります。
 それぞれ1/6の確率で勝利になるので、合計すると上記の7.10%(=16.67%*1/6+25.93%*1/6)ということになります。

  • ヒストリカルノート

12月15日には上野に出兵して、上野介藤原尚範を追放する。
19日には上野国府を落とした。将門は「新皇」を自称。

平将門 - Wikipedia

ターン6 (940/天慶三年師走第四週)

ターン6開始時の存在確率表(ターン3と4に俵藤太討伐を行った場合)

 このターンに上野国府にいる31.82%のプレイヤーも、完全勝利を狙うかどうかで選択が分かれます。
 デザイナーとしては、わずかでも完全勝利の確率を上げるために、ターン6でも俵藤太討伐を行なわないことを推奨とします。

 俵藤太討伐を行う場合は、1/6=16.67%の確率で限定的勝利が得られる代わりに、完全勝利の可能性はありません。
 俵藤太討伐を行わなければ、3/6*1/6=8.33%の確率で上総国府に着き、ターン8で16.67%の最後のチャンスを得られます。
 つまり完全勝利の確率が1.39%(=8.33%*16.67%)あります。

ターン7 (940/天慶三年睦月第一週)

ターン7開始時の存在確率表(ターン3と4に俵藤太討伐を行った場合)

 このターンからは、俵藤太討伐の選択肢はありません。
 ひたすら完全勝利の最後の条件である「ターン8開始時に上総国府にいること」に賭けます。
 その確率は、武蔵国府にいる28.7%のプレイヤーでは1/6で、上総国府にいる12.8%のプレイヤーでは4/6で、合計すると13.31%(=28.7%*1/6+12.8%*4/6)です。

 なお、このターンに猿島郡にいる0.02%のプレイヤーは、1/6の確率で「石井郷に退く」ことになり、敗北が決まります。

ターン8 (940/天慶三年睦月第二週)

ターン8開始時の存在確率表(ターン3と4に俵藤太討伐を行った場合)

 このターンに上総国府にいる13.31%のプレイヤーは、1/6の確率で平貞盛たいらのさだもりに進む可能性があり、それが最後のチャンスです。

  • ヒストリカルノート

天慶3年1月中旬、将門は常陸国へ出陣して、平貞盛の妻を捕える。

平将門 - Wikipedia

ターン9 (940/天慶三年睦月第三週)

ターン9開始時の存在確率表(ターン3と4に俵藤太討伐を行った場合)

 このターンで負けになるのは、猿島郡にいる0.08%のプレイヤーの1/6です。

ターン10(940/天慶三年睦月第四週)

ターン10開始時の存在確率表(ターン3と4に俵藤太討伐を行った場合)

 このターンで負けになるのは、猿島郡にいる0.27%のプレイヤーの2/6と、常陸国府にいる2.69%のプレイヤーの1/6で、合計すると0.53%(=0.27%*2/6+2.69%*1/6)です。

ターン11(940/天慶三年如月第一週)

ターン11開始時の存在確率表(ターン3と4に俵藤太討伐を行った場合)

 このターンで負けになるのは、猿島郡にいる2.56%のプレイヤーの2/6と、常陸国府にいる6.47%のプレイヤーの1/6で、合計すると1.93%(=2.56%*2/6+6.47%*1/6)です。

  • ヒストリカルノート

2月1日、平貞盛と藤原秀郷の兵4000を将門は1000足らずの兵で迎撃、下総国川口にて合戦して猿島郡に退却した。

平将門 - Wikipedia

ターン12(940/天慶三年如月第二週)

ターン12開始時の存在確率表(ターン3と4に俵藤太討伐を行った場合)

 最終ターンです。このターンで負けになるのは、猿島郡にいる4.69%のプレイヤーの2/6と、常陸国府にいる9.97%のプレイヤーの1/6で、合計すると3.23%(=4.69%*2/6+9.97%*1/6)です。

  • ヒストリカルノート

2月14日、貞盛・秀郷連合軍が将門の本拠石井(岩井)に攻め寄せ、将門が迎撃して戦死する。

平将門 - Wikipedia

最終結果

12ターン終了時の存在確率表

 表の上から順に、推奨通りの(ターン3と4のみ俵藤太討伐を行う)場合と、ターン3から6の全てで俵藤太討伐を行う場合と、全く行なわない場合の結果を並べています。

 ここから、俵藤太討伐を全く行なわないのは不利ということが分かります。
 逆に、全てのターンで俵藤太討伐を行なえば、限定勝利の確率が32.1%もあり、さらに負けの確率も若干下がるので、推奨通りの場合より有利と考えることもできます。
 ただし完全勝利の確率は推奨通りが最も高いので、あくまでも完全勝利にこだわるか、プレイヤーの価値観次第ですね。

ヒストリカルノート

 歴史的事件を題材としたゲームには、時代背景を理解したり、作戦の参考にしたりするために、史実を説明するヒストリカルノートが付きものです。
 このゲームでも、題材となった承平天慶しょうへいてんぎょうの乱の主要なイベントを、各ターンのメモとして付け加えました。
 参考:ウィキペディア

余談

 ゲームバランス以外の点で苦労したのは、1ターンが実際の何日にあたるかです。

 当初は1ターン=半月の全8ターンで検討していましたが、俵藤太討伐のルールを入れるにはターン数が少なすぎました。

 そこで、1ターン=10日の全12ターンにして一旦試作を完成させています。上旬・中旬・下旬と名付ければ、陰暦との相性もよい。

 しかし、ヒストリカルノートを書いていくと、ゲームの進行と史実が合わないことに気づきました。

 完成版では、1ターン=7日の全12ターンにして、ゲーム期間を4か月から3か月に縮めています。
 中世日本が舞台なのに「週」で区切るのはおかしいのですが、仕方のないところですね。

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ゲームの作り方

貴重なお時間を使ってお読みいただき、ありがとうございました。有意義な時間と感じて頂けたら嬉しいです。また別の記事を用意してお待ちしたいと思います。