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渡邉泰典(たいぴー)/いちごがり写真館まるかじり

法人名/農園名:まるかじり株式会社/いちごがり写真館まるかじり
農園所在地:宮崎県日南市
就農年数:6年
生産品目:いちご10品目(さがほのか、恋みのり、あまおとめ、かおりの、おいCベリー、紅ほっぺ、さちのか、もういっこ、章姫など)、ズッキーニ
HP:https://15photostudio.com/

no.161

農業はアートだ。農家の思想哲学を畑というキャンバスに表現

■プロフィール

 東京・西東京市のサラリーマン家庭に生まれ育つ。中央大学理工学部在学中、食と農をつなぐイベント企画サークル「eat happy」に入部し、各地の農家と交流するうちに、日南市北郷町の魅力に惹かれる。

 2015年3月、大学を中退して宮崎に移住し、先輩農家のもとで1年間研修を受ける。地域イベントに積極的に参加して知り合いを増やしながら農地を探し続け、2016年3月、耕作放棄されたハウスを格安で購入し、イチゴ栽培を開始。

 最初の3カ月は10年分のゴミ撤去に費やすとともに、クラウドファンディングで資金調達も行った。2017年に結婚した妻の茜さんが、移住生活を題材にした漫画『宮崎に移住した農家の嫁日記を描いて、マイナビ農業で連載されるようになると、注目度が高まり、LINEスタンプの販売やYouTube投稿にも挑戦。

 2018年には妻と一緒に会社を設立し、キクラゲ生産も始めて、香港への輸出を果たすが、大手の市場参入を機に3年で撤退する。

 2019年には、3反のハウスを購入し、専属写真家(妻が担当)がいる写真館の機能がある観光農園を夢見て、プロに空間設計を依頼。施工は、古材やコンクリートパネルを使って手作りで仕上げた結果、ハンモックや大道芸が楽しめる従来にない観光農園として注目を集めた。

 また、パプリカのような第二の産業作物になることを見込んで、ズッキーニに着目し、2021年、元・茶畑だった山を購入して露地栽培を開始するとともに、イチゴ農園を移転。2022年は大雨で土砂災害に遭うが、九州でも上位の5ヘクタール規模の農地に広げ、販路を拡大中だ。

■農業を職業にした理由

 中央大学在学中の2013年、自転車で九州一周の旅をしていた時に立ち寄った日南市の豊かな自然と人々の魅力に惹かれて、移住を夢見るようになる。卒業まで1年を残した2015年、両親の反対を押し切って、貯金20万円を握りしめて単身移住を決行。

 熊本のイチゴ農家で研修中、苗の中心部が英語で冠を意味する「クラウン(crown)」と知り、学生時代に習得した大道芸を演じるピエロ=クラウン(clown)に似ていることに奇妙な縁を感じて、将来はイチゴの観光農園を目指すようになる。

 日南市にて1年の研修を終えた2016年、耕作放棄されていたボロボロのハウスを格安で購入し、新規就農を果たす。最初の3カ月間は、地域の人にも手伝ってもらって10年分のゴミ撤去に専念。2017年1月には最初にできたイチゴを市場に出荷したが、その後は購入者の反応がわかる直販体制に切り替える。

 娘が誕生した2018年には台風でハウスが半壊する被害に遭ったが、それにもめげず、農園を法人化し、当時宮崎では周年栽培している農家がいなかったキクラゲの生産に挑戦。

 2019年1月には、3反のハウスを購入し、観光農園の事業化計画に着手。妻の要望で、母親と子供が一緒に撮影できる写真館の機能がある農園として、どこで撮影しても写真映えする「いちごがり写真館まるかじり」を2020年1月にオープン。

 2021年5月には、元々はお茶畑だった6.6ヘクタールの山を購入して、イチゴ農園を移転するとともに、ズッキーニ栽培に進出。5ヘクタールの栽培面積を誇り、主軸作物として順調に成長を続けている。

■農業の魅力とは

 以前、千葉の米農家に手伝いに行った時、無農薬栽培の水田は、稲穂が黄色みを帯びているのに対して、農薬を使って育てた水田は青々しているという違いに気づかされました。

 ……別に、有機栽培とか慣行栽培の是非を問いたい訳ではないのです。でも、これがきっかけで、「農業は農家一人ひとりが持っている思想や哲学を、畑というキャンバスに表現するアート」だと考えるようになりました。

 僕は学生時代、自転車で旅を続けた経験から、お世話になった人にその場で簡単にお礼できる方法として、バルーンアートや皿回しなどを習得しました。

 この大道芸は、宮崎に移住した当初、敬老会や子供会などのイベントに参加して地域コミュニティに馴染むのに役立ちましたし、写真館を訪れた親子連れのお客さまを楽しませたり、笑顔を引き出すのに欠かせない武器になっています。

 僕自身、大道芸人はアーティストだと考えているので、農家が畑というキャンバスで表現するアーティストだという考え方に通じるものがあると思っているのです。

■今後の展望

 2018年に法人化し、その3年後には茶畑だった山を買って開墾し、移転したイチゴの観光農園と共に、ズッキーニを通年で育てています。

 ズッキーニの生産面積はすでに九州でも三本の指に入る広さに拡大していますが、将来的には生産拠点を山のふもとに広げて、収穫から出荷までを標高の低い場所で完結できるようにしたいと考えています。

 一方、山頂部にはこれまで通り、イチゴ狩りできる観光農園とともに、宮崎県南部では生産者が少ないブドウ栽培にも挑戦したいと計画しています。

 僕は今、30歳ですが、これからの10年間で山をひとつの観光地としてパッケージにしたいと考えています。観光農園事業が成長して資産価値が上がれば、事業を売却して、40歳で新たなことに挑戦するのも夢があります。

 僕自身は所有欲が薄く、ゼロから何かを立ち上げることに情熱を感じるタイプですから、40歳になった時に、観光農園の事業が売上1億円、純利益が2,000万円になることを目標にしているのです。

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