『グッドバイ、バッドマガジンズ』

【前置き】
 書くだけ書いたけど、発表するタイミングを失したテキストなのですが、『邦キチ!映子さん』がネタに取り上げたので、便乗する次第……。

(ネタバレという程ではないですが、本編内容に触れています)。

【本文】
 東京オリンピックで、コンビニからエロ雑誌がなくなる2010年代後半を舞台に、エロ雑誌の編集部の落日を描いた作品。基本的には佳作。俳優陣は皆さん芸達者だし、エロ雑誌の編集部のダメな退廃や、エロ出版社のブラックな雰囲気が良く出ている。小ネタやギャグも悪くない。

 なのだが……、いくつか問題点があるのは否めない。

 まず、あれもこれも盛り込みすぎ。特にエロ雑誌編集部の話だからって、「セックスとは?」とか入れる必要ないわけで、ダメな編集者のエピソード補強かと思ったら、ガチに語り出し……その割りには中途半端でとっても困惑。特に終盤のエピソードは、余りにも唐突かつ無理が(セキュリティ的にあり得ないっしょ)。ああいうお話も入れたいのであれば、伏線の張り方とか、チューニングがもっと必要と感じた。
 エロ雑誌というややピーキーな場を扱いつつ、出版業界のゆるやかな死を描いている中で、セックスがどうのこうのとかが、むしろノイズになってしまっている感じが残念で、これならむしろ「エロ雑誌」という場所を扱いながら、現実のセックスとは切り離したぐらいの方が、いっそ清々しかったのでは。

 さらに、この映画、プロデューサー氏のエロ雑誌編集部での実体験に肉付けして作品ができているということなのだけれど、エロ雑誌以外のところがやはり弱い。初っぱな、主人公がその雑誌に憧れ、配属を希望してこの出版社に入社したのに、すぐに休刊してしまう女性向けファッション・カルチャー誌とか、ただの「出版社新人あるある」エピソード。もう一歩でも踏み込むだけで、映画中盤の創刊雑誌とももっと繋げられるわけで、舞台となる出版社の有り様に厚みも出たと思う。

 そして、最大の問題点は、エロ雑誌編集部の隣にいる「BL班」の扱いの余りの雑さ、ステレオタイプさ。
 エロ雑誌編集部とはまったく交流せずに、クローズド感が強いのは、まあ現実でもそうだとは思うけど、エロ雑誌側のニオイがヒドいからと、これ見よがしに消臭剤を撒いたりとか、BL班の女性編集者がそろいもそろってオタクっぽくてイケてないとかは、この作中のエロ雑誌編集部よりも出版社の営業よりも、カリカチュアが過ぎる。

 エロ雑誌が売れなくなっていく様の対比として、売れているBL班をダシに使っている<だけ>なのは分かるが、だいぶ粗雑。BLだって本当は「バッドマガジン」なわけだし、女にとってのセックスもこの映画のテーマにしちゃっているなら、本来ならBL班ほど「女性の性」に向き合っている編集者たちはいないはずなのに、オタク女という塊としての描写だけで、その中身を描かないのは余りにも一方的だろう。
 例えば、BL編集者に「バッドマガジン」という自覚がどこまであるのか? とかいうのも一つの切り口なわけで、そういったことまできっちり描いてのカリカチュアならば文句を言うつもりもないが、そういう内面どころか、登場人物の個性すらないモブとしての存在でしか描かれないのはさすがにどうなのか。もちろん、この映画で描きたかったことはそこではないのはわかってはいるが、ただラフにとなりに売れているBL班を置いただけではダメでしょ、と思う次第。

 この点、この映画のレビューをずいぶん色々見てみたけど、誰も言及してなかったので、そんなことを気にするのは私ぐらいかもしれないけれど……。

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