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ブルーベリーパイを責めることはできない

ずんずんと階段を降りるとほの暗いバーにたどり着いた。壁面には映画が投影されていた。 トム・ハンクス主演のヒューマンドラマが終わってから始まったらしい、"マイブルーベリーナイツ"は物語の中盤に差し掛かっていた。ノラ・ジョーンズ主演のやつだ。 どうして私は捨てられてしまったんだろう、どうして私じゃだめなんだろう、と行きつけのカフェで静かに落胆するヒロインに、他の売り切れたケーキとおんなじくらい美味しいのに毎晩まるまる売れ残っているブルーベリーパイを見せながら、店員のジェレミー

孤独に香りはあるのか

Sweet Novemberという映画のヒロイン、サラ・ディーバは、1か月だけ自分の恋人になってほしいと主人公ネルソンを口説くとき、「あなたからは女の人に愛されていない悲しい男の匂いがする」と言っていた。 Sweet Novemberはその年のゴールデンラズベリー賞、「最低リメイク及び続編賞」「最低男優賞」「最低女優賞」の三部門にノミネートされたアメリカの映画だ。見ている最中ずっとどこかがむずがゆかったのはどうやら私が恋愛映画というジャンルに抱いているアレルギーだけが理由じ

許すことは難しい

ある面接の最中に「映画鑑賞」という趣味について突っ込んでもらえることがあった。質問に対して「少し硬派ですがスリー・ビルボードというハリウッドの映画が心に残っています」と答えた。 スリービルボードは薄暗い国際線のフライトの中で眠れずに見た。ゴオオという音や乾燥でひりつく鼻の感覚、粗野でくたびれた女主人公の姿、その時ひとりぼっちで向かっていたアメリカという国の、なかなか照らされない南部の景色がリンクしている。クリントイーストウッドのとる映画の空気に似た重苦しさを感じた。何週間か