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祖母を懐う

2024/01/21
父方の祖母が逝去した。
いよいよ危ういと聞いたのが先月の頭だったから1ヶ月も持ち直したことになる。
数えで98歳。
孫のエゴだけど100まで、せめて白寿まで…とキリがない祈りを捧げたりしていた。
それでも大往生だと思う。
残念ながら旅費もそうだけど空港からの斎場までかなり不便で足がないため帰省は断念したけど、
流れている野間家の血が泣いているのか少し滅入る。

祖母が暮らしていたのは宮崎県えびの市という場所で産業はほぼ第一次産業。
ここ最近は県外にも流通し始めた「ヒノヒカリ」という美味しいお米や里芋やゴボウなどの野菜と畜産が盛んな土地だ。
よく田舎のイメージ図で描かれる遠くに山、真ん中らへんに線路、手前が田んぼで家が点在しているというあの風景のまんまの土地で子どもの頃に帰省するとえらく暇なところだった。

遠くの国道にローソンがあるんだけど歩いていくと片道1時間くらいかかる(当然24時間営業じゃないし定休日もある)
遮るものがないので遠くに看板は見えているんだけど田んぼが多いせいで道がジグザグになっているから最短ルートでも遠回り。
暇な上に不便という典型的な田舎。

特に子どもの頃は遊ぶところもないし遊ぶものもない。
どこかに連れて行ってもらおうにも車がないからどこにも行けないし話し相手もいない。
仕方がないので年下のいとこのおままごとに付き合ったり読み飽きているコロコロコミックがヨレヨレになるまで読み返していたりした。

祖父が存命だった頃は牛の声で目が覚める。
2頭か3頭だったけど牛の声は太いのでウーファーのようによく響く。
時々、中庭に繋いであって小さい頃はものすごく大きな生き物だからずいぶん怖かった。
それでもビビリつつ祖父と一緒に餌をあげたりするうちに少しずつ慣れて岩塩の塊を牛の鼻先まで持っていって手のひらごと舐め回してもらっていた。
あれでわしは動物に対する過度の恐怖心がだいぶ薄れたような気がしている。

しかし1995年の9月に祖父が交通死後で急逝したため牛は手放すことになり、
その楽しみも奪われてしまった。
高校生になると帰省する事自体が減り
二十歳の時に帰省した際は暇つぶし対策でギターとエフェクターとアンプを担いで行って帰省とは呼べない感じだった。
けれどいざ行ってみると不思議なもので幼い頃等違って退屈どころか
見上げる空の広さや限りなく少ないコンクリート、風を受けて揺れる初夏の田んぼが海に見えたりと自然の美しさに惹かれていることに気づいた。
何よりも夜になると真っ暗なので星空の美しさは圧倒的で見慣れた星座を見失うくらい星が満ち溢れていた。
天の川を初めて見たのもここだ。
もちろん生活したら不便だし退屈なんだろうけど都会より精神的に健康だと思う。

祖母のことを思い出してみると「◯◯に行った」とか「◯◯を買ってもらった」みたいな記憶はほぼない。
農家なので基本的に畑に行っていたし家にいる時は家事がある。
ちびっこでも分かるくらい忙しそうだったから何かをねだることもしなかった。
その代わりに毎年、祖父と作った「野間家の米」とともに祖母特製のこんにゃくや切り干し大根、
「あくまき」というもち米を灰汁で炊いた郷土菓子などが入っていて、それが思い出になっている。
(個人的には冷やしてきな粉と砂糖で食べるのが好き)
こうして書き出していたらどれも二度と食べることができなくなったんだな…とまた寂しくなってしまった…
わしが祖母に孝行できたとすればカミさんを連れて行ったことくらいだと思う。
ものすごーく緊張してたっぽいけど…。

祖父母が亡くなり大伯父や大伯母(大叔父、大叔母)もすでに亡くなっているのでえびの市で暮らしているのは叔父夫婦のみ。
気持ちの問題は別として少しずつ訪れる機会が減っていくのは間違いない。
頭の中ではずっと分かっていたけど改めて突きつけられると胸が少し苦しくなる。

だから今年はちゃんと帰省してえびのを訪れるつもりだ。
そのために…節約しないとな。

祖母から最後にもらったお小遣いに添えられていた一筆箋に「固く禁煙」の4文字があった。
ごめんね。守れなくて。
「固く禁酒」なら余裕なんだけど…。

祖母には人生初の弔電を打った。
今はお線香付きというのもあるんだなぁと驚きつつ、香典やお花の代わりにと思いそれを選んだ。
(余談だけどdポイントで支払えるのは便利だ)

さて悲しみに暮れすぎるとメンタルに響くからこの辺で気持ちを切り替えていこう。

おばあちゃんからしたらよく分からないことばかりしてる孫ですが頑張ってますので応援していてください。
ようやくおじいちゃんとまた暮らせるね。
そちらでもどうぞお元気で。
まだ先だけどわしもそっちに行くはずだからそのときはあくまき作ってね。
ありがとう、おばあちゃん。
心からの愛を込めて。
野間慎太郎

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