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(読書記録)2021の読書跡

長く続ける事は苦手な性格ながら、読書の記録"だけ"はかれこれ14年以上続けています。

読書記録を振り返ると、うすぼんやりな記憶の本が殆ど。本は悪くないのです。こちらが忘れてしまうだけ。忘れるものは忘れるし、それを無益といえば無益な行為ともいえる。でも、有益な事もある。読書行為を問うても仕方ありません。

そんな、「頼りない」今年の読書遍歴から、比較的手触りが残っている本、ふとした時に思い返したり、実行動にも影響を与えた、そんな10冊を選んでみました。美術関係に多少偏っているものの、際立った一貫性はありません。「図書館の返却棚に置かれた、誰かの読書跡」を眺めるような気持ちでさらりとご覧いただけたら。
(書籍画像は「書影メーカー」経由の「openBD」から使用しています
https://shoei.randoku-serendipity.com/book/4622089491?isbn=4622089491

タイトル:アルフレッド・ウォリス 塩田純一/著 出版社:みすず書房

アルフレッド・ウォリス 海を描きつづけた船乗り画家

いわゆる正当な美術教育を受けておらず、厚紙や家の壁といった身の回りの素材にあり合わせのペンキで絵を描いた画家、であり船乗りの伝記。日本国内での展示は2007年に庭園美術館で開催されたきりらしく、私も実際の作品を観た事はありません。前情報を知らず、掲載の図版だけ眺めてもぐっと惹かれます。だから読みきれたとも言えます。彼の持つ清純な表現は、彼を見出した画家達に良い刺激"だけ"を与えたわけではないし、画家達に見出された彼自身もそれであらゆる苦難が救われたわけではない。そこに妙味を感じてしまいました。


タイトル:イラストで読む 新約聖書の物語と絵画 杉全美帆子/著 出版社:河出書房新社

イラストで読む 新約聖書の物語と絵画
新約聖書を題材とした絵画は、多くの画家が、物語の様々な場面を、それぞれの解釈で描いています。ゆえに個々の作品から新約聖書の世界を俯瞰するのは難しい。私はこの辺りが西洋画への苦手意識に繋がっていた節があります。本書は逆。個々の画家や制作時代に焦点をあてるのではなく、新約聖書の流れに沿って場面にまつわる絵画を紹介するという画期的な一冊です。聖書に限らずですが、誤った解釈が後世に拡がっていく様もまた面白かったり。


タイトル:土になる 坂口恭平/著 出版社:文藝春秋

土になる
著者の3ヶ月間の「生活」と「創作」を綴った日記のような一冊。文章を書き、畑に向かい、野良猫と戯れ、絵を描く。その繰り返し。充実ぶりが文章から滲み出てくるし、何よりパステル画にも体現されています。彼のたどり着いた暮らしは憧れますが、私は坂口恭平ではありませんのでそっくりなぞる事はできません。ですが、彼の喜びには私自身の理想にも重なるエッセンスがたくさん。自分なりに汲み取り、読み終えてから毎日の日記と土いじり家庭菜園を始めました(今も継続中)。

タイトル:京極夏彦講演集 「おばけ」と「ことば」のあやしいはなし 京極夏彦/著 出版社:文藝春秋

京極夏彦講演集 「おばけ」と「ことば」のあやしいはなし

全国で行なった主に「妖怪」「幽霊」「おばけ」にまつわる講演集。恥ずかしながら京極夏彦さんの作品を読んだ事もなければ、妖怪研究家であった事も知らず。妖怪に関する本を探していた時に偶然手にとりました。いや、非常に面白い。水木しげるが生み出し影響を与え続けている「妖怪像」を紐解くことで、「妖怪」がいかに何でもありで人間勝手な存在であるかを知れて面白かったです。その上で、改めて水木しげるがいかに偉大な存在であるか知れます。水木愛・妖怪愛も去る事ながら、読書についての(偏屈な)愛を語った講演も必見。これで心を捕まれました。


タイトル:オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る オードリー・タン/著 出版社:プレジデント社 (書影が登録されてなかったので画像無し)

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る
「ITの天才」という大雑把な情報は耳にするものの、実際はどういった人かわからず。本著を通じて半生を知ると、確かに文句なしに類まれなる天才でした。個としての高い能力にも驚愕ですが、その力を政治を介して民衆に還元していく事や、立場の違う人の声に傾聴しようとする態度に脱帽。追従を許す仕組みを世界に開放しようという、懐の大きさまで含めて「偉人」なのだと思います。

タイトル:ワラグル 浜口倫太郎/著 出版社:小学館

ワラグル
「笑いに狂うと書いてワラグルや!」良く聴くラジオ番組のCMで猛プッシュされていて、根負けするような形で手に取りました。CMのノリから軽快な小説だと思い軽〜く読むつもりが、意外、どころかかなり骨太。面白くて夢中で一気に読みさせられてしまいました。一気読みさせられた本は、瞬間最大風速の高さゆえに時間が開くとぽっかり内容を忘れがちなのですが、『ワラグル』は構成も秀逸で、今でも小説の場面をふと思い出してしまいます。なんだったら登場人物達が実在しているような錯覚まで。物語の感触がいつまでも残っているのです。


タイトル:「ことば」に殺される前に 高橋源一郎/著 出版社:河出書房新社


「ことば」に殺される前に
著者曰く「路上演奏」が成立していた、今より牧歌的な側面のあった頃SNS(Twitter)での投稿が掲載されています。良し悪しはともかく、発している言葉に漂う空気が明らかに今とは違う。Twitterに限らず、拡声に便利な「SNS」の外には、そこから離れていった人や、そもそも足を踏み入れた事もない人々が大勢います。言葉に飲み込まれるとそんな「当たり前」を見失い、言葉に蝕まれてしまう。今や珍しくない現象に、改めて想像を巡らせてしまいました。

タイトル:女装して、一年間暮らしてみました。Seidel,Christian/著 長谷川圭/翻訳 ザイデルクリスチャン/著 出版社:サンマーク

女装して、一年間暮らしてみました。
当たり前が当たり前ではない事を確認するように、「ジェンダー」に関する本を読む事があります。研究書や生活の中で感じるもやもやを綴る内容が多かったのですが、この本はタイトル通り「1年間女装してみたドキュメンタリー」というかなり体当たりな内容。時として今までにない解放感に喜べたかと思うと、パートナー(女性)や友人の態度に傷つく… そう遠くない将来、女装/男装という言葉が過去の物になったとしたら、ストッキングやスカートを「履きたいとも思わない」という「今」は「スタンダード」な自分の価値観も、後世からみるとだいぶ「縛られた」価値観に映るのだろうなと思ったり。

タイトル:ありのままがあるところ 福森伸/著 出版社:晶文社

ありのままがあるところ
障害とアートという話題が出ると、必ずと言って名前にあがる「しょうぶ学園」。その世界の先駆者である福森さんの考え方は、驚くほど今の自分の考えと重なり、大きく背中を押されたような気持ちに。
ところがです。読み終えてしばらく経ち、ふと「いや、自分が今の考えに至れた土壌を切り拓いたのが、そもそもしょうぶ学園の活動だったのではないか」と気付いてしまいました。背中を押されていたのではなく、大きな背中の後ろを歩んでいたのです。さて自分には、なにができるだろう?大きな背中が見えてしまった以上、考えていくしかなさそうです。

タイトル:わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる Dain/著 出版社:技術評論社

わたしが知らないスゴ本は、 きっとあなたが読んでいる
この本をなんとなく手に取り読んだ事がきっかけで、下半期の読書ペースが加速して今年は例年の1.5倍以上本を読んでいました。この手の本を手に取る時は大体、読書けん怠期なのですがこの本自体も読んでいて面白かったし、その延長で効果も出たという。読んでここまでに挙げた本の殆どは『スゴ本』を読んでいなかったら手にとっていなかった可能性が高いです。私にとっての「スゴ本」がこの『スゴ本』だったという。


「良い本」を「良い本」たらしめるには出会う"タイミング"も重要だと思っています。読みきった本と同じくらい読みきれなかった本も数多く。自分にとって「良い本」に出来なかったわけですが、その事を悔やんでいても仕方ありません。手に取った本を一冊でも「良い本」として味わえるように、来年は暮らしていけたらと願います。

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