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アラサーゲイの合コンレポ


「男」

誕生日プレゼントの要望を聞かれた私は、迷うことなくそう答えた。

本気で男が欲しかったわけではない。

このやり取りは私と友人の間で何年も続けられた儀式で、形骸化した挨拶のようなものだった。

だから友人も慣れた様子で返事をした。

「オッケー。かしこまり」

今年は何になるのだろう。
去年、「男」として用意されたのは数多くのアダルトグッズだった。
少し頭のおかしい友人のことだ。
レンタル彼氏や売り専を用意してしまうのではないだろうか。
そんな不安があった。

だから合コンの予定を伝えられたときは、正直なところ喜びよりも戸惑いが大きかった。

ノリで「男」とは言ったものの本気で出会いを求めているわけではないし、それ以上に初めましての相手に気を遣って会うのが面倒に感じた。

あぁ、憂鬱だ。

憂鬱だ、憂鬱だ。

憂鬱だと思いつつ合コンの前日には美容院にも行ったし、眉毛サロンにも行った。
新しい洋服も買った。
ムダ毛だって処理した。

そう、なんだかんだワクワクしていた。

合コンにいい思い出はなかったが、宝くじに似た諦めのような期待で胸がいっぱいだった。


舞台は新宿三丁目のとある居酒屋。
何度か来たことのあるお店だったが、戦場だからだろうか、いつもより少し緊張感が漂っていた。

友人と私が一番乗りだったため、案内された席の一番奥に座った。

今回は3対3の合コンで、私側の陣営を友人が、相手側の陣営を友人の知り合いが集めて開催された。

携帯を見ながら前髪を整える私を、友人は何度もバカにしてきた。

「お前、今日なんか可愛くないな」
「身長低く見えるように床に膝立ちがいいんじゃない?」
「顔が怖すぎる。合コンだよ?」

そんな友人の軽口に緊張を解されながら、リップクリームを塗りミンティアを口にした。

戦う準備はできていた。

突然、友人が私の顔をじっと見つめ、少し難しい顔をしながら言った。

「ダメだったら二度と会うことないんだし、いい人がいたら恥を捨てて絶対に連絡先聞けよ。お前は本当に可愛いとこあるし、マジで幸せになってほしい」

友人の言葉に私は不覚にも感動した。
暇さえあればお互いに罵りあっている友人が優しく幸せを願ってくれている。
本気で今回の合コンは頑張ろうと思った。
あぁ、優しい友人を持ったな。




そんな優しい友人を、5分後には呪っていた。

私側の陣営のもう一人が到着した。
友人とは仲が良いらしいが、私は初めましての相手だった。
驚いた。本当に驚いた。

「可愛い」という言葉の権化のような、笑ってしまうくらい可愛い男が現れたのだ。

顔が小さく目が大きく、笑い方も5億点満点の男だった。
俳優の千葉雄大のような圧倒的な可愛さがあった。
(以下、この男を千葉と呼ぶ)

慌てて友人の顔を見ると、嬉しそうに彼は言った。

「マジで2人とも良い奴だから、気が合うと思って会わせたかったんだよね」


嬉しいけど。それはすごく嬉しいけど。

今日じゃねぇだろ。
頭悪いのか?
今日を何だと思ってんだよ。
合コンだぞ?
クソが。負け戦じゃねぇか。
ありとあらゆる汚い言葉が私の口から溢れそうになった。

もちろん、外見が全てではない。
ただ残念なことに、千葉は優しい奴だったのだ。

一つ一つの動作や言動が柔らかく、嫌味のない微笑ましい可愛さだった。
相手陣営を待っている間も、口下手な私にたくさん気を遣って話しかけてくれた。
完全に歳下だと思ったが、30歳になったばかりの歳上という事実にも驚いた。

対して私は外見が残念な上に、千葉の粗探しばかりするような最低な野郎だ。

勝ち目はない。

合コンへのモチベーションは地に落ちていた。

千葉が最近恋人と別れたことや、Twitterやアプリをしていないことを聞いているうちに相手側の陣営も揃った。
相手側の男3人は短髪系や前髪系といったジャンルには属さない、強いて言うならば「会社経営してそう系」な3人だった。

祐天寺や学芸大学付近に住み、家のハンドソープはAesopで、歯磨き粉はMARVISを使ってそうな男たち。

顔から服装から何から何まで、遊んでそうな雰囲気に包まれていた。
こういう男たちに手を出して痛い目を死ぬほど見てきたため、好みではあるがしっかりと冷静になれる自分がいた。

そんな中、一人、目を奪われる男がいた。
私の理想である松田龍平のような男だ。
(以下、松田と呼ぶ)

松田ももちろん遊んでそうではあるものの、喋り方がゆったりとしていて、目をしっかりと見て話してくれる男だった。

しかも3人とも話してみるととても誠実さが伝わってきて、色眼鏡で見ていた自分を少しだけ恥じた。

簡単な自己紹介をしたあと、人数が6人ということもあり各々で話すというよりはみんなで会話をしていくような形になっていった。

過去の恋愛や直近の恋愛を聞く中で、3人の誠実さや価値観を推し量りつつ、やはり松田を含めた全員が千葉狙いという空気もしっかりと感じていた。

しかし相手もそこは大人で、私や友人が除け者にならないよう会話に入れてくれ、千葉も私に話を何度も振ってくれた。

話せば話すほど3人への印象は改まり、とても素敵な人たちだなぁと感じた。

友人は恋人がいて公言しているため、実質的には私と千葉のタイマン勝負であった。


「あ、俺車内アナウンスのモノマネできるんですよ」

松田が昔、鉄道オタクだったという話をしたときに千葉がモノマネを披露した。

どこの線のモノマネだったか忘れてしまったが、たしかに聞いたことのある綺麗な英語の車内アナウンスだった。

「すげぇ!!」
「英語話せるの?」
「色々な線のモノマネできるの?」

男たちはすごく楽しそうに千葉に食いついた。

「いや、英語は全く話せないんです。何故かこのアナウンスだけ必死に練習しました」

千葉は笑いながら答えた。


あぁ、千葉、ありがとう。
勝手に嫉妬してごめんな。
お前はそんな奴じゃないよな。
こうやってステージを用意してくれたんだよな。
ありがとう、ようやく私の出番だ。

そう、何を隠そう、私の特技はモノマネである。

「モノマネだけは本当にすごいよな」

友人たちからの評価もものすごく高い。

「俺もモノマネしていいですか?」

松田が自己紹介でラジオでオールナイトニッポンをよく聴くと言っていた。
そこで、オールナイトニッポンのパーソナリティの一人でもあるお笑い芸人三四郎の小宮のモノマネを披露した。


期待通りだった。

松田も千葉も、その他2人の男も爆笑していた。
友人だけは笑いながらも何かを訴えてくるような目をしていた。

松田は顔を縦に伸ばして大きく笑い、その日初めて手を叩いて笑っていた。

「めちゃくちゃすごいね。他にもできるの?」

本当は小梅太夫のモノマネをしたかったが、ここは合コン、笑いを取る場ではない。
私は小梅太夫を見てほしい気持ちを抑え、お笑い芸人ネルソンズの和田まんじゅうのモノマネをした。

これまた男たちは手を叩いて笑い、松田のその日一番の笑顔を見ることができた。

松田をこんなに笑わせることができたんだ。
たとえ選ばれなくても悔いはない。





本当に選ばれなかった。

千葉と松田は新宿の夜の街へと消えていき、他2人の男もいつの間にかいなくなっていた。

美容院へ行き、眉毛サロンに行き、新しい洋服を着て、その下はムダ毛処理をしている、いつもより少しだけオシャレで少しだけ綺麗な自分だけが残った。

駅に向かっているときに友人は言った。

「合コンってモノマネ大会じゃないよ」

わかってるよ。

「だから小梅太夫やめて和田まんじゅうにしたじゃん」

そう怒りながら伝えると友人は間髪入れずに言った。

「小宮から違ったよ」




合コンって難しい。
合コンで可愛い子を押しのけて選んでもらうには、どんな方法があるのだろう。

本気で男を求めているわけでもないのに、合コンで選ばれなかったことに落胆している傲慢な私を、神様どうか許してください。



後日聞いた話だが、千葉と松田は無事に結ばれたらしい。
少しだけ報われた気がした。

私がこの世に生まれていなかったら、
私が友人に男をねだらなかったら、
結ばれなかったかもしれない2人。

なんか、いいじゃん。

もしまた合コンの機会がもらえるのであれば、次は絶対に小梅太夫を披露しようと思う。

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