意外と消えないもの

半年くらい前、主に生活雑貨を売りつつ食品やアパレルも展開している某店で気になった服があり、試着室に入った。
着替えていた時、突然試着室のカーテンがシャッと開いて、カーテンのほうに振り返ると真面目そうなサラリーマン風の、見ず知らずの中年男性が立っていた。
彼は私の入っていた試着室がなぜか空いていると思ったらしく、カーテンを開けてしまったらしい。私はスカートを脱いだところで下半身はタイツ一丁だった。彼はごめんなさい!とほぼ叫びに近い声をあげて即座にカーテンを閉めた。
びっくりしたのと、なんでカーテン閉めてるのに中に誰かいると思わないんだよという怒りと疑問が入り乱れた状態で着替えを済ませ試着室から出ると、試着の案内をしていた店員さんにも大変申し訳ございませんでした!とものすごく丁重に謝られた。その後、店内で他の商品を見ていてその店員さんと鉢合わせた時にもまた謝られた。彼女は何も悪くないのに。
その時は大丈夫ですよ、と笑って済ませたし、実際自分も大丈夫と思っていたし、本当に笑い話くらいに思っていた。友人にもネタとして話したかもしれない。ただ、その店にはしばらく行かなかった。またあの店員さんと顔を合わせたら謝られるような気がして、そういうことを考えるとどうしても行く気になれなかった。

そして今日、久々に服を買いに出かけて、例の店に入った。また気になる服があって、試着室に入ったら、半年前のことを思い出した。誰かに開けられたらどうしよう。あの店員さんに会ったらどうしよう。お互い顔も忘れているだろうに。なんだか落ち着いて試着ができなかった。
その店だけだと思っていたら、どこの店の試着に行っても、誰かに開けられたらということを一瞬考えてしまう自分がいることに気づいた。カーテン式の試着室では、フックや留め具の場所を念入りに確認するようになった。(これは店によってあったりなかったりする)コロナ禍でしばらくちゃんと時間をかけて服を買うということをしていなかったし、試着をしないで買うことも増えていたので、半年前の出来事がこんなに尾を引いているとは思わなかった。私って被害者なんじゃないか。加害者を立件なんてできないし、する気もないけど。
記憶は意外と消えないものだ。しばらく男女兼用の試着室には入れなさそうだ。

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