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【映画感想】『アルハラート+』サウジアラビアに想いを寄せて

【※ネタバレ注意※】
ネットフリックスで視聴。後述するが、ある意味自宅で視聴して良かった作品かもしれない。

初めてのサウジアラビア映画だったが、全編通してアラビアンナイトな異国情緒漂う作品で、視聴しているだけでその地を旅行している気分になれた。ぼくが外国の映画を観る目的というか、楽しみの一つに、スクリーン越しに、その地域の文化や風土を体感できることがある。もっとも、本作品のプロデューサーや監督に、そのような意図はないだろう。ただ、「普通のサウジアラビアの舞台」で、物語を撮っているのだと思う。だけど、それが良い。言い換えると、ぼくは「海外向けに作られたサウジアラビアを紹介するための映像」が観たいのではない。自国民に向けて撮られた映像を通して、その国を体感したいのだ。
そういった意味で、この映画を観れたことはとても良かった。

勿論、本作は映画としても面白い。4つの異なる物語からなるアンソロジーであり、それぞれの物語は30分前後と短いため、起承転結の展開が早く、画面から目を離せない。
物語はいずれも「欺きと策略がテーマ」と銘打たれている通り、主人公らは目一杯の策を巡らせ、相手を欺こうとする。ただ正直、1話目の泥棒であったり、2話目のウェイトレスであったり、何とも身勝手な主人公らに辟易してしまう視聴者も多いかもしれない。しかし、何とも愛嬌があり憎めないキャラクター達に、ついつい感情移入して、同じようにハラハラドキドキしてしまうのだ。

本作で注目したのは、キラーフレーズというか、思わずくすっと思わされる台詞が多く散りばめられている点だ。特に1話において、相方の泥棒が飲み物をさっと持っていた際に、
『毒を入れようか』
と吐き捨てたり、
自分から散々煽っておいてからの
『警察だけには言うな』
だったり、悉くぼくの笑いのツボに入ってしまい、何回も声を出して笑ってしまった。
そう、これが冒頭で記した家で見て良かった理由である。劇場で笑い転げるのは流石に恥ずかしいので……。

1話目と2話目の幕間に教訓のように表示された、「知恵のあるものが知恵を出すべきだ」は、泥棒達に対する強烈な皮肉だろうか。3人の内、誰にも知恵がないように見えてしまった。尚、他の話にはこのような教訓は存在しなかったが、もし裏設定があるのであればぜひ知りたいものである。

2話は、絵にかいたように田舎からやってきた雰囲気の、”場にそぐわない”主人公の両親に共感性羞恥を覚えてしまった。いや、正確には自分の両親を重ねてしまい、なんとも居たたまれない気持ちになってしまった。もっともそれは、あの夫婦の演出・表現がそこまで細かく凝っていたからに他ならないのだけれども。2話は「寿司」や「刺身」など耳馴染みのあるフレーズが聞こえてくるのも、なんともくすぐったい。あれだけ文化の違う異国でも、(実態は残してないとしても)寿司や刺身を食べているのだと、改めて思わされる。最終的に主人公は解雇されてしまうが、これは間違いなくハッピーエンドと言いたい。職がなくたって、家族三人仲が良いのが一番素敵なことなのだから。

3話は比較的平和な他作品と比較すると、もっともシリアスといえるだろう。まず冒頭に交通事故の現場から始まり、一人の男性が亡くなってしまう。(2話→3話の唐突な切り替わりに、2話の三人家族が事故に遭ったのかと思ってしまった。ミスリードを誘うのが狙いなら見事…か?)
主人公の男性はひたすら健気だ。幼馴染の浮気を隠し通すために、脱法行為(車の強奪)も厭わず、深夜の高速を駆け抜ける。目的として、幼馴染の尊厳を守るためなのであるのは当然として、遺された妻の心を守るためでもあるだろう。自分にとって最良(だと思っていた)夫を亡くした妻が、夫の不貞を知ったとあれば、その落胆を想像するのは難くない。そう考えると、3話目にして、もっとも支持できる主人公が現れたといえるかもしれない。
だが、エンディングはなんとも残酷。冒頭の男をに加えて、主人公含めた合計3人が死んでしまう。

そう、女性が1人亡くなっているのだが、果たしてこれは誰だろうか?

浮気相手か、はたまた未亡人となった妻か、、この演出からでは、いずれも考えられると思っている。是非とも、他の方々と感想を交わしたい。個人的な意見を述べさせてもらえば、未亡人となった妻でないかと思うのである。

そして最終話となる4話へ。3話とは打って変わって再びコメディ色が強くなる。ぼくとしては、一番好きな話かもしれない。
ところで、この話においても、再び”サード”という名前が登場する。一見繋がりの薄いそれぞれの話において、唯一の共通点と言えるが、果たして何を意味するのだろうか。何かしら裏設定がありそうで、こういった製作の遊び心(?)には、ついつい想像を巡らせてしまう。粋な計らいだと思う。

親子間のハンドサインや、調子の良い酔っ払いたちなど、終始、賑やかな印象の4話であるが、ここまでの積み重ねと合わせて、改めて文化の違いを実感せずにはいられなくもなる。サッカーサウジアラビア代表のキャプテンと呼ばれる男が、こそこそと隠れるように夜遊びを楽しむ。盗撮にも気を遣わねばならない。イスラム教では、女遊びや飲酒を固く禁じられているためだろう。彼らの生活においては、どんなトップヒーローであっても、”神の赦し”なしに、快楽に溺れることも許されない。
それでも――――やはり隠れても、禁じられた娯楽を享受したい人々がいるのである。即ち、現世の人間の欲とやらは、信仰心にも勝るものなのだろう。でも、ぼくはそれでいいと思うのだ(偉そうだけど)。やはり、生きていくためには、この世界での楽しみを見つけなくては、”甲斐”がないのではないだろうか?

ぼくは、本作を視聴し、サウジアラビアやイスラム教に興味を抱き、詳しく調べてみるきっかけになった。やはり、異国の映画を観ることは、人生は豊かにしてくれる。

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