波に消された足跡


5歳の息子は浜辺にのる波と遊んでいる。
私は年に一度この場所をおとづれていた。

潮風が心地よく、私たちを包み込んでくれた。
もう5歳、やんちゃで、いろんなことに興味が出て、わがままな子になった。
この子と過ごすたびに、どこか懐かしい気持ちなる。

どこからともなく、あの子は拾ってきた貝殻を私にくれた。
虹色に輝くその貝殻は私が1番好きなものだった。
ふいに顔を上げると、あの子が何か言いたそうにしていた。
…パパはどこ?

あなたのパパはいい人だった。
初めて二人っきりで出かけた時、私に虹色に光る貝殻をくれて、付き合ってじゃなく、間違って結婚してくれとか言っちゃったりさ。
あなたを産んだ時にはすごくすごく泣いて、私より泣いてたよ。
あなたがこの海で溺れそうになった時、あなたを助けた。
パパはここにいるよ。


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