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『あなたは月面に倒れている』倉田タカシ(著)

スパムメッセージがヒトの姿を借りて、ある日玄関先に現れたら?――現実の少し先にあって、けれど決定的な変貌を遂げた日本社会を、若者たちの視点から活き活きと描いた近未来SF「二本の足で」にはじまり、独特の浮遊感ただよう幻想小説「あかるかれエレクトロ」や、タイポグラフィを駆使した実験小説「夕暮にゆうくりなき声満ちて風」まで。柔軟にして力強いイマジネーションの結晶9編を収めた、書き下ろしを含む初の独立短編集。

ベストSF 2023[国内篇]、5位の本作だが、個人的にはぶっちぎり1位。すばらしい想像力に感動した。
設定もりもりの近未来SFから、段々と幻想小説になってゆく構成も楽しい。後書によると、誠実なのが前半だそうな。更にtwitter文学出身で驚き。

この人の作品、今後読むたび、これはどっちなんだろうとドキドキするんだろうな(笑)

以下お気に入り。

二本の足で

スパムメールが実体化して玄関に訪ねてくる未来のお話。しばらく音沙汰のない友人宅を尋ねると、そこにはスパムが溢れていて…。

スパムがこう進化するとは想像だにしなかった。素直に感心する。
そのスパムだけでもユニークだが、会話などからじわじわ明らかになる世界も不気味で素敵。それでいて、主人公たちの青くさい友情劇は、人間が今と変わってない様子を感じさせる。しかし、文化の土台が違うから、全然ちがう感じ方をしてるんだろうなぁ、などと考えるのが楽しい。

思い返すと、スパム達、薬物や暴力を使わず言葉で説得しようとするの、人道的だな(笑) ここまでやっておきながら法律を守ってる所がより不気味。

トーキョーを食べて育った

核戦争後、子どもたちがパワードスーツで野山を駆け回るお話。初めてドームの外で人間を見つけたが…。

子どもの日記のていで核戦争後の日本が描かれる。わんぱく。
これも説明が全然なく、子供が駆け回り、見聞きした描写から、世界を想像する必要があるが、それが楽しくてたまらない。
弟の日記なのに、お姉ちゃんのポエムが勝手に書かれてたりと、小技も冴えてる。
この子どもたちがあるものを探しているのだが、その正体がまったく予想外で痺れた。こういう予想をやすやす超えてくるお話が大好き。

天国にも雨は降る

未来のシェアハウスの話。ある日爆撃を受けたことをきっかけに、主人公達はこの世界の真実をAIから聞かされ…。

人間達の無理難題をテクノロジーでなんとかしようと頑張る所が、柞刈湯葉の『まず牛を球にします』に似てる。
人間はわかりあえないから、AIが技術的に棲み分けを提供している社会のお話で、話し合いましょう、よりよっぽど現実的なのだが、ディストピア感しかないのはなんでなんだろう。

生首

ごとり、と音がして、見にゆくと生首が落ちている。しばらくすると消えている。というのが毎日繰り返されるお話。

ホラーかと思いきや、車窓と並走する忍者みたいなほのぼの系で吃驚。
未来のおばあちゃんからのテレパシーとか、一貫して意味不明で清々しい。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #SF

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