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オバタカズユキ|言論の自由【書評】

みなさんこんにちは。
今日は30年以上前に書かれた作品を紹介します。
著書:オバタカズユキの「言論の自由」です。

基本情報

オバタカズユキ

出版社:双葉社

発売日:1993/3/1

なぜ、今この本を薦めるのか

発売から既に30年以上経過している作品である。それでいて決して色褪せることがない。
本書で発明された「相関図による言論の可視化」は、故ナンシー関さんの「消しゴムハンコによるシニカルな批評、みうらじゅんさんの「概念の創造」と同じくらいに物書きとしての圧倒的な個性であり、著者が選ばれし才能の持ち主であることがすぐにわかる。

ナンシーさん入門編として。

みうらじゅんさん。タイトルからしてもう天才だ。

作品の魅力

1つ目 : 悪意を感じさせずに猛毒を喰らわす悪意

2人の天才ライターと同様に、本書における筆者の着眼点、各著名人への切り込み方は今読んでも新鮮で、何より一言一言に仕込まれた毒の濃度にやられてしまう。
それも、全く気負いのない、淡々とした文体で綴られるものだから、読み手は少し困惑しつつ、後からくすぐったい笑いに襲われるのだ。

2つ目 : パラメーター設定の上手さ

本書では、政治家、評論家、学者、映画監督、俳優、音楽家と非常に幅広いジャンルを対象に国内の著名人たちが登場する。
オバタ氏は各人の特徴と語る上で各種パラメータを使って表現する。
例えばそれぞれの人生観や行動原理を「チャームポイント」「芸風」、彼ら著名人に心酔する人々を「客層」といった具合に、各種パラメーターに整理し、そこそこ数行の表現で的確に特徴を捉えているのである。
端的に表現をする才能がオバタ氏は際立っているのだ。
また、
ディスりは決して本書で取り上げる著名人だけでなく、我々読者にも容赦なく向けられている。
著名人らを支持する一般市民を皮肉を込めてカテゴライズし、我々読者自身の軽薄さをこれでもかと見せつけてくる。これがまた痛いところをつく表現のオンパレードだから面白い。
今の時代でいえば、西村ひろゆき氏とキャラクターが被るのだが、著者は自分が矢面に立つこと、何より稼ぐことにあまり積極的でない点で大きく異なる。
本書の後のキャリア(後述する)を見ると、それがよくわかる。

3つ目 : 相関図による行動、思想の可視化

本作の発明「相関図による可視化」は、筆者の現在に至るまでのキャリア全体を通しての一つの武器となっている。伝統芸みたいなものだ。
オバタ氏が描く相関図は、単に上下左右の軸にパラメータを設定し、著名人を配置するのではなく、著名人達がいる世界そのものを一つの土地に見立てた上で相関図を設定している。そうすることで、本来であれば相関図上の「点」でしかない個々の著名人に、感情や意思を持たせ、相関そのものが今後変動する含みを持たせることができ、結果的に図上の設定そのものが刹那的であることを暗に示している。本書の内容を本気にするな、これは冗談だよと。

最後に

久しぶりに読むとやはり面白かった。適当なようで、嫌なくらい相手を観察した上での著者の言葉はやはり引き込まれる。
その一方で残念に感じたは、オバタ氏のインパクトのある批評スタイルが本書限り、最初で最後になってしまったことだ。何かしらの事情があったのかも知れないが、わからない。
仮に、今の時代の著名人を取り扱った「言論の自由 令和ver」などを発売することがあれば、真っ先に購入したい。その予定はないだろうか?

このあと、オバタ氏が進んだ方向は、私にとって予想外そのものであった。

「大学図鑑」は一度聞いたことがある人も多いと思う。読み物として面白い。しかしシリーズ品の「資格図鑑」は事実誤認をしていることと、単純に調査不足な点が多くありお勧めはできない。

このほかもこのような著作を出されていた。こちらも以前に読んだ。

オバタ氏は、めちゃくちゃ真摯で真面目で、そして不器用な人だと思う。こちらの著作では自らの経験、友人のエピソードを踏まえて「働く」ことそのものを問うている。そして著者自身も葛藤の中、日々過ごしていることを斜に構えることなく淡々と語っている。



以上になります。

子供の頃読んだ本ですが、強烈なインパクトがありました。毒があってかつ面白い作品です。著者の着眼点や表現力は今の時代に読んでも斬新に感じます。
発売当時から年月も流れ、SNSで著名人の個人的な発信を受け取れる時代に、あえて著名人の言論をベンチマークしたような風変わりな書籍は流行らないのかもしれません。
しかし時代の空気感を端的な言葉で表現できるような存在は、西村ひろゆき氏をはじめ、現代においても重宝されていることがわかります。
今回紹介しました、オバタカズユキ氏の著作を一度手にとって頂き、また皆さんの感想を聞かせて頂ければ嬉しいです。

最後まで読んで下さりありがとうございます。



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