#10 新しい依存先
バイト先で知り合ったミカさんは、おしゃれで明るくて素敵な女性だった。
元々は広告デザイナーをしており、仲間と共に地方紙を発行するなど、精力的に活動していたらしい。
しかし震災の煽りを受けて、受けていた仕事が全部キャンセルになり、仲間はバラバラ。借金もできてしまい、今はこうやって日雇いで日銭を稼いでいるらしかった。
ミカさんは、色んなことを教えてくれた。
高時給の日雇いバイトや、広告デザインの作り方……
「君、元WEBデザイナーでしょ? もったいない。私と一緒に独立しようよ」
彼女のノウハウと人脈、そして胆力なら、きっとやっていけると思った。
彼女と二人三脚で事業をやって……それで生きていくことができたなら、やっとこの地獄から抜け出せる。
僕は全てを捨てる覚悟で、彼女についていくことを決めた。
色んな仕事を彼女とコンビを組んでこなした。
知らない世界を知れて、楽しかった。
そんなある時、夜遅くまでバイトをしていた時だった。
「うちね……セックスレスなんだ」
いつもは気丈なミカさんが、ポツリと呟いた。
もう何年もしていないこと、旦那さんはほとんど収入もなく、家事も育児もしないため、自分が全部やらなければならないこと。
ミカさんは、全部を話してくれた。
「ねぇ……私って、そんなに魅力ないかな?」
「ミカさんは、すごく魅力的ですよ」
「……ありがとう」
笑った顔が、どうしても泣いているように見えて、僕はとうとう観念した。
「僕も、全然うまくいってなんかないんですよ」
レイプまがいの仕打ちを受けたこと、日常的に受けている暴力。
親からの虐待、妹の自殺未遂。
今まで隠していた弱い部分を、ミカさんにだけは全部さらけ出せた。
ミカさんは、泣きながら僕を抱きしめてくれた。
ああ、この人は、僕のことが好きなんだ。
そう思った。
じゃあ、僕は?
ミカさんは、好きだ。
でも、ときめくような好きではない。
全てを投げ出して一緒にいたいと思う。
でも、不倫の賠償金を掛けてまでではない。
僕は、クズだった。
どうしたら彼女に、この地獄から連れ出してもらえるのか、そのことばかり考えていた。
彼女から与えてもらうことばかり考えていた。
彼女は僕が好きなんだから、当然だと思った。
僕は彼女に気を持たせながら、たくさんのデザイン技術を盗んだ。
・・・だからきっと、罰が当たったんだ。
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