#4 暴力

彼は次第に家に帰らなくなっていた。

朝まで飲み明かしては、次の日仕事をサボって一日寝込むということを、繰り返すようになっていた。

聞けば彼のお父さんもそういう人で、外で働く人には当然のことだと言う。

飲んだ次の日休むことを、会社も容認していると言うのだ。

会社勤めをしていない僕には、何が本当のことか判断できなかったし、幸いにしてスキルの高い彼は仕事もクビにならず、年々給与も上がっていっていた。

比例するように、彼が飲み潰れる日が増えた。


少しずつ彼が仕事を繋いでくれることも少なくなり、人脈もない駆け出しの僕は、日々の仕事を請け負うことも難しくなっていった。

色んな日雇いバイトに登録してみたが、今度は家事労働が疎かになり、彼の怒りを買って貰える生活費が少なくなってしまった。


性処理道具のような生活も加速し、彼の気ままに出されるだけの日々も続いた。

愛を確かめる行為ではなかった。

こちらが何かを求めれば、あからさまに溜め息をつかれたし、喜んで身を差し出す素振りを見せないと、不機嫌になる日が続いた。

それでも僕は必要とされることが嬉しくて、僕の存在を認められたようで、キモチヨクも何ともない行為を、ただただ喜んでいるフリをした。


彼が声を荒らげる日も増えていった。

声を荒げて相手を脅したり、人格を否定することも暴力だからやめろと伝えると、完全に目を血走らせながら、首を絞めるように掴みかかってきた。

「落ち着け」と頬を平手打ちしてやると、「これは暴力じゃないのか!」と、彼は喚き立てた。

ここまで言葉が通じない人間がいることにも驚いたし、ここまで人間が獣のようになることにも驚いた。


「俺を怒らせたのはお前だろう」

「お前のような人間を必要とする会社なんかない」

「みんなお前をおかしいと言っている」

全部、実際に彼から言われた言葉だった。

社会と隔絶して生きていた僕は、その評価が全てなのだろうと思った。


僕が至らないから

僕が彼を怒らせるから

僕の我慢が足らないから

全部全部、僕のせいで


眠らずに家事労働と彼の相手と就労を繰り返していた僕は、重度のうつになっていた。

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