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クルマが大好きな人が整備士を辞める理由

整備士を養成する専門学校で教員として働いていたので、よく学生にこんな質問をしたもんです。
次のうち、最も「魅力的ではない」志望動機はどれでしょう?

  1. 待遇が良いこと(給料が高い、など)

  2. 好きなクルマを扱っていること

  3. 地元の企業であること

  4. 福利厚生が良いこと(有給が取得しやすい、など)

多くの学生が「1.」とか「4.」を挙げるのは、就職に際してあまりお金のことを言うのはみっともない、とでも思ってのことなのかな。

もちろん、絶対的な正解はないのだけれど、学生には「2.好きなクルマを扱っていること」を志望動機として相手に伝えないように、といつも話していた。
志望動機として掲げてはいけない、というよりも、掲げるほどの話ではない、という意味で。

理由は簡単で、「好きなクルマがあるのなら、就職しないで客になってくれ」と思われるから、ということ。
従業員には給料を渡さなきゃいけないけど、客ならお金を払ってくれるんだから。そのクルマが好きなら、どうぞ買ってください、お金を払ってください。ということ。

「好きなクルマを扱えるなら、仕事のモチベーションも高まる」という主張もわからないではないが、好きなクルマでなくてもモチベーション高く仕事してくれ、というのが使用者目線の言い分だし、これ、クルマ以外だったら当たり前の話でしょ。
例えば、回鍋肉が好きだから中華料理の調理人になりたい、って言う人に対しては、「いや、中華料理の店をやるなら、回鍋肉だけじゃやっていけないでしょ」って言うだろうし、からあげクンが好きだからLAWSON(店舗経営)に就職したい、って言う人に対しては、「いや、店舗じゃなくて商品開発部目指してね」ってなるだろうし。

整備士に求められるのは、クルマが壊れないようにすることと、壊れたクルマを治すことを通じて、安心安全なカーライフを提供することなので、そのクルマが好きかどうか?は無関係。
「あなたの好き(want)を満たすために、客はお金を払うわけではない」という「働く」のそもそもの意味を理解させようとしない中学校や高校の俗流キャリア教育の負の面が如実に現れる。

特に、趣味性の高いクルマを扱う販社や整備工場は、離職率が高い。
代表的な理由は2つ。

1つは、国産車ディーラのように店舗数が多くないので、人間関係のトラブルが発生するとそれを解消する手立てがない(転勤ができない)ので、数カ月後、数年後まで地獄のような職場環境が続く。と思えばすぐに辞めたくなるのは理解できる。
もう1つは、wantを満たすために就職する傾向が強いので、客や使用者のneedsを満たす意識が低い。だから、仕事の要素のうち「何をするか?」について満たされなくなると、すぐ辞めたくなる。
そして、離職者が多くなると、最初の理由にループする、というわけで、離職率はさらに高くなる。

「好きなことを仕事にする」っていうスローガンは魅力的だし、未だに多くの大人たちはそれを是として子どもや若者に将来のことを語っているけど、整備士はクルマを作る仕事でもなければ売る仕事でもないので、もし「好きなことを仕事にする」という路線で将来のことを語るのであれば、「直すことが好きなら、それを仕事にするために整備士はどうだい?」という方向から語った方が、まだましだ。

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