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「ブラック・クランズマン」 スパイク・リーが白人至上主義のトランプに放った渾身作 Black k Klansman

「TENET テネット」を観て、主演のジョン・デヴィッド・ワシントンの前作「ブラック・クランズマン」(18年) を見逃していたのを思い出し、Netflixで鑑賞したら、これが期待していた以上に面白かった。スパイク・リーの傑作の一本。

原作は、ロン・ストールワースの自伝。彼がコロラド・スプリングス警察に、1972年にアフリカ系アメリカ人として、初めて入署するところから始まる。カレッジも出たインテリなのに、最初に配属された資料室で、黒人差別を受け嫌になる。
晴れて刑事として採用され、黒人解放運動ブラック・パンサーの侵入捜査を命ぜられ、大学の黒人学生自治会会長のパトリス(ローラ・ハリアー)に出会う。この集会での演説を聞いて高揚するロン。
ある日新聞に載った、KKK(クー・クラックス・クラン)のメンバー募集に電話をかけ、「俺は黒人が大嫌いだ」と白人のアクセントでわめき、面接までこぎつける。
黒人である自分の代わりに、相棒のフィリップ・ジマーマンに、面接に行ってもらい入会を認められ、侵入捜査を始めるのだが……

KKKは、白人至上主義者の「組織」。黒人はじめユダヤ人も差別している。アダム・ドライバー扮するフィリップは、ユダヤ人のため、彼の素性もバレないかとヒヤヒヤする。

原題は、Black k Klansman。
ブラック=「黒い」、クランズマン=「KKKメンバー」という意味で、間に“k“を入れてKKKにしている。
そのKKKに黒人が入って、メンバーシップ・カードをもらうというのは、それだけでこの物語の面白さ、痛快さがわかるだろう。

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国民の創生 The Birth of Nation (1915年)登場

ハリー・ベラフォンテが登場して、実際にあった悲惨な、黒人のジェシー・ワシントン・リンチ事件を語るショットと、KKKのメンバー全員が映画「国民の創生」を観て歓喜するショットが、交互に描かれるところは、この映画の中で非常に重要なシーンだとぼくは思う。

説明すると、アメリカの映画を学ぶ学生は、最初に「モンタージュ理論」の教科書として、この「国民の創生」を見せられる。問題なのは、この作品を監督したD・W・グリフィスが、とんでもない差別主義者だったということ。

つまり、この場面のように、異なる場所で起きることを交互に見せる、「並行モンタージュ(クロス・カッティング)」は、D・W・グリフィスが考えたものなのだ。その「モンタージュ」を使って、黒人・白人の対比と「国民の創生」をコケにした場面を作ったのは、スパイク・リーの白人映画人たちへの大いなる皮肉である。

ちなみに、ハリー・ベラフォンテも、ネット世代の若い人は知らないかも知れないが、「バナナ・ボート」が大ヒットし、60~70年代には大歌手だった人で、「USA フォー アフリカ」”We are the world”の呼びかけ人である。
公民権運動にも積極的に参加し、キング牧師とも交友があった。ハリウッドで「赤狩り」のブラック・リスト入りもしていたという、筋金入りのアフリカ系アメリカ人なのだ。

この映画では、他にも冒頭に「風と共に去りぬ」(39年)の南北戦争の、おびただしい負傷兵と南部の旗が映るカットが入ったり、KKKの全国指導者のデビッド・デュークが、その「風~」のナニー役の黒人女優ハティ・マクダニエル(黒人初のオスカー受賞者。白人が好きな黒人を演じた)が好きだったと言うセリフもある。

「風と共に去りぬ」は今年2020年に、HBOの配信停止問題が出たが、その理由は奴隷制度を肯定している時代のものだからだ。
だが、以前からこの問題はあったことが、この映画からもわかる。

ちなみに、KKK指導者デューク役のトファー・グレイスは、撮影後長い間深刻な「うつ」になってしまったという。本人はそんな差別主義者じゃないから、大変だったんだなと気の毒に思う。

スパイク・リーのアカデミー脚色賞受賞

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本作で、スパイク・リーは初めてオスカーを手にした(名誉賞は除く)。2019年の授賞式では、プレゼンターのサミュエル・L・ジャクソンと抱き合って、その喜びを隠さず見せていた姿が印象的であった。

1990年「ドゥ・ザ・ライト・シング」が絶賛されていたのに、作品賞にノミネートさえされなかった。
その時に作品賞に輝いたのは、「ドライビング・Miss・デイジー」。黒人が、白人女性の運転手になるという物語だった。

2019年「ブラック・クランズマン」は作品賞にノミネートされたが、結果「グリーン・ブック」が受賞した。今度は、白人が黒人の運転手になる話だ。
スパイク・リーは、怒りながら会場を後にした。実際にあったグリーン・ブックというのは、黒人拒否のホテルのリストで、黒人差別を合法化したものだったから。それに主役のヴィゴ・モーテンセンが、インタビュウで軽はずみに、黒人蔑視の言葉を使い、問題になっていたからだ。

「いつも運転手の話で、ぼくは受賞できない」と冗談まじりに言ったというが、2016年に名誉賞をもらう際も、俳優部門20名全員が白人だったことから、授賞式をボイコットしている。

いずれにせよ、本作は、カンヌ映画祭でも絶賛を浴び、審査員特別グランプリに輝き、このアカデミー賞でも脚色賞受賞で、スパイク・リーのキャリアはまた一段上がったと思う。

スパイク・リーと共に、製作に名を連ねているのは、「ゲット・アウト」」「アス」の監督ジョーダン・ピールなど。これだけでこの映画が信用できるとわかる。

「『黒いジャガー』と『スーパーフライ』どっちが好き?」とか、ブラックスプロイテーションの会話もあり、70年代のコアな映画好きも楽しめるはず。

ドナルド・トランプという、KKKが全面的に支持する大統領が誕生した危機感からスパイク・リーが放った渾身作。
今年2020年の大統領選挙(11月3日)に、アメリカ国民が「ドゥ・ザ・ライト・シング」するかどうか?注目している。

てなことで。

26-Sep-20 by nobu


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