見出し画像

アルコール依存症にならないために見ておくべき映画3選 「酒とバラの日々」「男が女を愛する時」「失われた週末」

新型コロナ在宅勤務で増える?「アルコール依存症」

新型コロナ在宅勤務で、巣ごもり「アルコール依存症」が増加する危険性があるという記事を読んだ。(2020.04.09 現代ビジネス)

かつて経験したことのない世界的なコロナ禍で、身体的にも、精神的にまいるので、酒を飲みたい気持ちもよくわかる。

かくいうぼくも、正直に言うと... 以下3本の映画を再見した理由は自分への戒めである。
香港では長期間に渡り在宅勤務が要請されており、毎晩家でだらだらと酒を呑み、時々お客さんや友人と酒をあおる生活を送っていたため、「痛風」がでてしまったのだ😫。初めてではなく、何度目かの発作であったが、今回が一番痛くて、ひどかったのだ(トホホ)。

医者へ行き、薬をもらい、足を高くして、映画を見た。じんじんする足を我慢して。こんなことを繰り返していたら、「アルコール依存症」になっちまうな、と思いながら…

映画を見て、怖さを知ることが、抑止力になると思っている。この3本とも、主人公たちは、アルコール依存症で苦しむ。問題を真正面から切り込んだ映画である。

夫婦共々アルコール依存症になる「酒とバラの日々」。妻が依存症になりファミリーが崩壊する「男が女を愛する時」。依存症のため、幻覚を見てしまう男を描く「失われた週末」。

3本とも映画としての出来もすこぶる良い。では、1本ずつ簡単に解説していきましょう。

「酒とバラの日々」(62年)"Days of Wine and Roses"

Reference YouTube

ブレーク・エドワーズは、ぼくにアメリカン・コメディを教えてくれた名監督だ。中学へ入った頃TVの洋画劇場でやっていた「グレート・レース」「ピンク・パンサー」「ティファニーで朝食を」など、とても洒落てて面白くて、すぐファンになった。そのコメディを得意とした監督が撮った、この「酒とバラの日々」は、笑うとこなどほとんどないシリアスなものだった。

広告代理店で働くジャック・レモンは、取引先の秘書リー・レミックをデートに誘う。彼女はお酒は飲まないという。チョコレートが大好きな彼女に、ブランデー・アレキサンダーという、甘くて飲みやすいカクテルを差し出すと、彼女は美味しいと気に入ってくれた。
結婚して娘も産まれ、幸せな日々を過ごすが、仕事のストレスから、家で夫婦で飲む機会が増え、二人は酒浸りの生活を送るようになる。
夫の単身赴任中に、酔って家でボヤ騒ぎを起こしてしまった妻。おかげで、夫もクビになり、二人の人生は転落してしまう。
アルコール依存症のため、仕事も長続きしない。やがて妻の実家で、実直な義父(チャールズ・ビックフォード)とバラの栽培をすることにするが、また酒を飲んでしまい、酒瓶を隠したバラの温室を無茶苦茶にしてしまうジャック・レモン。このシーンは、見てて沈痛な気持ちになる。
その後、夫は施設に入って反省→またお酒飲む→反省→またお酒飲む→… のループに入ってしまう。妻のリー・レミックは、自分をアルコール依存症と認めたくない。夫は更生会へ入り、治そうと努力するが、妻は酒飲み仲間がいなくなったと寂しがり、他の男に走る。
イネイブラーと共依存の関係となってしまった夫婦。救いのない物語である。

アカデミー歌曲賞を受賞した、ヘンリー・マンシーニ作曲、ジョニー・マーサー作詞の、現在ではジャズのスタンダードとなっている名曲「酒のバラの日々」がタイトルに流れるが、そのロマンチックな曲のイメージは微塵もない。見終わって暗たんたる気持ちになる。

「これはウォッカ・マティーニと同じように本当の人生です」ブレーク・エドワーズは、自作をこう表現した。甘くない、辛いカクテルに例えている。ハッピー・エンドではない、厳しい現実を見つめたこの映画は、アルコール依存症を描いた傑作であることは間違いない。

「男が女を愛する時」(94年) "When a Man Loves a Woman"

Reference YouTube 

大人気だった頃の、メグ・ライアンのベスト・パフォーマンスがこれ。R&Bの名曲「男が女を愛する時」が流れるラブコメだと思ったら大間違い。シリアスなアルコール依存症の話だったのだ。彼女はこの映画で、SAG(全米映画俳優組合賞 )主演女優賞にノミネートされた。

パイロットのアンディ・ガルシアと、2人の娘と幸せに暮らすメグ・ライアン。だが、酒量が増えていくと同時に、だんだん人格が変わっていく。
女性のアルコール依存症を扱ったものは、1994年当時としても珍しかった。アメリカでも増えつつある、こういった人々に向けての映画だったのだろう。
見ていてつらいのは、小さい娘たちが、母親の姿を見て心を痛めるところ。普段は真面目な教師なのに、夫がフライトの日は、夜な夜な酔っ払って帰ってくる。タンスに隠したジンをあおり、そして子供を虐待してしまう。
実際のアルコール依存症の親に育てられた子供たちが、ことごとく大人になってから壊れていくのはこういった体験からだろう。

下の娘が、お父さんにこうたずねる「アルコールいぞんしょうってなに?」
父に代わり姉がこう答える「ママみたいな人のことよ」

夫と話し合い、妻は更生施設に入る。禁断症状と戦い、施設の患者仲間たちとリハビリに励む。
だが、家庭を守る夫も、仕事との板挟みで、だんだん壊れていってしまう。
そして施設を出てから、二人の仲は、よくなるどころか悪くなってしまうのだ。

これを見るとアルコール依存症がいかに家庭を壊してしまうかがわかる。その後家庭を維持するのがいかに困難かも... 

依存症の妻と夫、そして家族の再生を描いた佳作である。アルコール依存症は家族も傷つける。子供にトラウマを残す。

「失われた週末」(45年)"The Lost Weekend"

Reference YouTube

1945年のアカデミー賞作品賞・監督賞・脚色賞受賞、ビリー・ワイルダーの名作である。主役のレイ・ミランドは主演男優賞を受賞した。

レイ・ミランドは、33歳の売れない小説家。自分では才能があると思ってるが、一向に芽が出ない。おかげで今は酒浸りのすさんだ日々を過ごしている。
ジェーン・ワイマンの恋人や、フィリップ・デイリーの兄が、酒を忘れさそうと努力してくれるが、すぐに酒場に逆戻り。
酒代がなくなり、酒場で隣の女のハンドバックに手をかけたり、商売道具のタイプライターも質屋に入れようとする始末。最後は知り合いのオンナに金を借りて、あげく階段から落ち入院してしまう。
入院先は、アルコール中毒患者の更生施設だった。血中濃度が高すぎたのがその理由。
「このまま飲み続けると、幻覚を見るぞ」と施設の人間に忠告を受ける。「最初は、小動物を見る。それからゴキブリが体中を這い回るんだ」
施設を抜け出し、盗んだ酒を自宅で飲み、彼はついに幻覚を見る。部屋の壁からネズミが顔を出し、そこへ吸血コウモリが飛んできて食べてしまう。古い映画で、モノクロだが、この壁から血が流れる場面は恐ろしい。
彼は、それから質入れした拳銃を出してきて、自殺を図ろうとするのだが…

劇中、「なぜ酒をやめられないのか?」とバーのマスターに聞かれ、レイ・ミランドは言う。
「回転木馬に乗ると音楽が終わるまで降りれない」
「理由はわかってる。なりたいもの(皆に尊敬される一流の小説家)になれないからだ」

彼が書こうと決心した小説の題名が「The Bottle (酒瓶)」。彼女に、あなた自身の経験を書くのよ、と元気づけられるところで映画は終わる。

世界ではじめてアルコール依存症を真剣に描いた作品。この映画の成功もあったのだろう、その後、1955年にフランク・シナトラが、麻薬に手を出し薬物依存症になる、オットー・プレミンジャー監督の傑作「黄金の腕」が登場する。ぼくはこれを若い頃にTVで見て、薬物に手を出さないと決めた。

ちなみに、ニコラス・ケイジがアルコール依存症の役で、アカデミー主演男優賞を受賞した「リービング・ラスベガス」(95年)。その原作者ジョン・オブライエンも、長年に渡りアルコール依存症で苦しんだ。妻のために書いた半自叙伝がこの原作である。だが、彼は映画の完成を待たず、拳銃で自殺する。34歳だった。
まるで「失われた週末」の後日談ではないか。レイ・ミランドが書こうとした「The Bottle (酒瓶)」とは、こういう救いのないストーリーだったのかもしれない。

終わりに

以上、紹介した作品は、製作年度が古いということもあるが、字幕では「アルコール依存症」が「アル中(アルコール中毒)」となっていたりする箇所もある。
それに「酒とバラの日々」のジャック・レモンは、今ならDVだと思う。
女性が依存症になるスピードは、男性より早いのだということもわかった。映画として、甘っちょろい終わり方にすんなよ、と思う部分もある。

当時はわからなかったこともあっただろう。時代の変遷であるが、それでもアルコール依存症になってしまうまで、なってしまったあとのことは、これらを見るとわかるはず。

「ストレス」や「さみしさ」がつのると、何かに逃げたくなる。人間は社会的な生き物だから、酒が必要になる時もある。「アルコール依存症」は、決して精神論で治るものではないと思う。兆候があれば、早めに専門家に相談すべきだろう。

もしこれらの映画に興味をお持ちになっても、くれぐれも酒を呑みながら鑑賞されない事をおすすめします😅 どうぞご自愛のほど。

てなことで。


最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました!