M&A(1):総論

さて、今度のテーマはM&A

「会社を売り買いするなんて⁉」という古き良き時代もありましたが、バブル崩壊後の生き残りをかけた吸収合併、グローバル化の進展によるクロスボーダーM&A、そして最近では中小企業の事業継承の観点から日本企業でもM&Aが当たり前のようになってきました。

皆さんも新聞や雑誌、Webの記事では見聞きしたことがあるかと思いますが、実際の経営実務の現場では、買う方も買われる方も通常のマネジメントとは異なる「有事の対応・進め方」が必要となってきます。

M&Aの教科書

M&Aに関する書籍の多くは「M&Aとは?」といった基本的な考え方やM&A戦略概論の話か、より部分プロセス的な買収までのDD(デューデリジェンス)や買収価格の決め方(バリュエーション)をテーマにしたもののどちらかのように思います。

最近出版された書籍の中で、経営実務家から見ても、人見健氏の書かれた「M&A失敗の本質」は様々な企業へのコンサンティング実務を通じて得られたM&Aの進め方や落とし穴について包括的に書かれていて、非常に参考になります。

この書籍ではM&Aの「失敗の本質」について、以下の7つの失敗原因「悪しき種」が「悪しき結果」を生むと分析しています。

①「M&Aありき」のあいまいな目的
② リスクの楽観的バイアス
③「自己保身的」行動
④ 結果責任意識の欠如
⑤「有事性」の理解不足
⑥「自己流」マネジメント方式の踏襲
⑦ 経営者的思考の弱さ

M&Aの入門編がいきなり失敗の話?と思われるかもしれませんが、それだけ日本企業にとってM&Aの成功は難しく、失敗事例も多いということだと思います。

逆説的に言えば、この本に書かれた7つの失敗原因を克服して、目的を明確に、買収リスクを客観視し、自己流マネジメントを押し付けず、経営陣自らが経営者的思考を高めて、最後まで結果責任を取るようにすれば、うまくいくはずなのですが。。。

グループ経営のところで、親会社とグループ会社の関係・距離感はまさに「親子関係」にも似ていると例えましたが、M&Aはいままでライバル関係だった男の子(女の子)といきなり一つ屋根の下で兄弟の関係になったり、知らない他所のうち子を「養子縁組」することに近いと思います。家族の一員として迎え入れ、同じ家族になるためには、それなりの苦労と配慮、難しさがあるのは当然だと言えるでしょう。

M&Aの成功例

日本企業で海外M&Aを成功例と言えば、JTが筆頭にあげられるでしょう。
当時のCFOが書かれた本も出版されています。

本の帯や出版社のサイトにも以下のように紹介されています。

 「海外M&Aのことなら、この人に聞け」と言われるのが、JT副社長の著者だ。M&Aの担当者はJTの門を叩き、巨額M&Aを成功させた
辣腕CFOに、どうやって経営統合するか、教えを請う。

JTのM&Aについては、M&Aアドバイザリーのコラム等にもいくつか
解説がなされています。

このサイトにも書かれていますが、書籍においてもJTのM&Aでは
一般的な企業における有事のM&Aでは、自社の経験値が少ないため、投資銀行やFA、M&Aアドバイザリーに頼るところがかなり多いと思うのですが、JTでは自社内のリソース中心で動いています。

CFO曰く、海外であっても自社事業(たばこ)に関わるマーケットや事業運営、KSFは自分たちが最もよく理解している。FAには客観的なマーケットバリューの算出をお願いするくらいだと言い切っています。

彼らにとっては、M&Aは有事の話ではなく、通常のマネジメントに組み込まれ、「養子縁組」の経験値を高めているということです。これはM&Aプロセスや考え方は異なっても日本電産などM&A巧者にも言えることかと思います。

外部のM&Aエキスパートに支援を仰ぐのは悪いことではありませんが、
彼らもM&A仲介手数料等で稼ぐ一面を持っていますので、頼りすぎると、日本企業が陥りやすい「高値掴み」になりかねないので注意が必要です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?