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経営戦略総論(11):巨大企業の躓き(米国の事例)

これまで、経営戦略総論のテーマで3回に渡って紹介した
「再興 THE KAISHA」とは打って変わって、巨大企業が躓いていくケースについて、今回は考察してみたいと思います。

過去、エクセレント・カンパニーと言われた米国の巨大企業が躓いていく様子は外からは書籍や雑誌でしか、その一端を知ることは出来ませんが、そこには「変革が出来なかった」「大企業病に陥った」といった一般的に言われているような理由とは異なった、経営者・経営陣を取り巻く様々な誘惑や過ちがあったようです。

米国グローバル企業の躓き

GE帝国

GE(ゼネラル・エレクトリック)と言えば、発明王トーマス・エジソンが設立し、世界最大の米国総合電機メーカー・コングロマリットとした名門企業でした。

特に1981年から2001年までジャック・ウェルチがCEOを勤めた間に、その分野のシェアが1位か2位であることをビジネス存続の条件として、大胆な事業の入れ替え(選択と集中)を行い、さらに大きな成長を遂げました。
ジャック・ウエルチはシックスシグマ学習する組織ワークアウトなどの経営手法を取り入れた一連のGE改革の成果から「20世紀最高の経営者」と持て囃されたのを覚えている方が多いのではないでしょうか?

その後を継いだジェフ・イメルトは、この巨大企業の多くの事業群を「デジタル製造業」として再定義し、リーンスタートアップIoTプラットフォーム(Predix)の導入ともに、金融業からの撤退を図りました。
米国版インダストリー4.0「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)」の中核企業、DXによって変身する大企業の先進事例として日本でも数多く紹介されてきました。

ところが、2017年にイメルトがCEOを退任する数年前からGEの株価は低迷し、2018年にはダウ・ジョーンズ工業株価平均から外されています。
ビル・ゲイツが「2021年夏の推薦図書5冊」に選び、昨年邦訳が出版され話題となった「GE帝国盛衰史」は、そんなジェフ・イメルト時代を中心に
苦悩するGE内部の状況を綿密な取材をもとに赤裸々に暴いています。

DXブームの先駆け「デジタル製造業」の先進事例として大々的に取り上げられたGEも、この本を読むと不良債権処理に悩むGEキャピタルの影響を最小限に抑えるために、ジェフ・イメルトら経営陣が「デジタル」で
リ・ブランディング
し、IR上も前面に出して、株価の持ち直しを狙っただけなのではないか? という当時の内幕が暴かれています。

この本を読むと、いまのDXブームサステナブル経営企業経営上の本質的な課題・戦略なのか株式市場へのアピールなのか、どちらなのかをしっかりと見極める必要があると改めて考えさせられます。


巨象IBM

「GE帝国盛衰史」を読んで、かなり前に同じような事例を読んだのを思い出しました。

本書「倒れゆく巨象」では、かつては「ビック・ブルー」と呼ばれたIBMが凋落したのは、メインフレーム中心のビジネスからオープン化・クラウド化の流れに乗り遅れたからではなく、ソフトビジネス・コンサルティングビジネスへの変革の過程で、内部で経営陣を中心に株価維持・向上のために、顧客や社員を軽視したリストラクチャリングが行われていたからではないか?とその内幕が描かれています。

IBMも、1993年までの3年間で累積赤字150億ドルに陥っていた巨大企業を当時、RJRナビスコ会長だったルイス・ガースナーがIBM初となる外部招請の会長兼最高経営責任者(CEO)に就任し、見事に経営再建を果たしたことで脚光を浴びました。2002年にCEOを退任するまでに、ネットワーク・コンピューティングやe-ビジネスなど、インターネット時代に即したコンセプトを打ち出し、IT業界の巨人「ビック・ブルー」として、かつての輝きを取り戻し、復活したことを覚えている方も多いのではないでしょうか?

その後、IBMのCEOは生え抜きのサミエル・パルサミーノ、2012年にはジニー・ロメッティへと引き継がれていきます。いまでもIBMはダウ工業株30に入っていますが、何となく往年の輝きがないというか、GAFAMの高成長の裏で、影が薄れている感じがします。

本書「倒れゆく巨象」は、2008年のリーマンショックを挟んで、2007年から2014までのパルサミーノ、ロメッティ時代のIBM戦略の動向(凋落)経営の内幕が書かれています。
株価向上を狙ったコスト削減のために、米国を中心とした先進国の優秀で顧客から信頼されていたエンジニアが削減される一方で、インド等安くエンジニアが雇える国に人的リソースがアウトソースされ、社員の士気が下がるとともにサービス品質も悪化し、優良顧客が離れていく様子が多くの社員へのインタビューとともに描かれています。


巨額報酬は強欲を生み出す?

米国を代表する2つの巨大企業の話からだけですが、この話に共通するのは巨大企業ゆえの官僚主義変革スピードの遅さといったものではなく、
経営陣の株価市場主義により、経営の方向性を見誤ったからなのではないか?という点です。

これを裏付けるかのように、2022年にはジニー・ロメッティは現CEOアーヴィンド・クリシュナらとともに戦略的売上高を不正に計上し、高額のボーナス報酬を得ていたと集団訴訟を起こされています。

日本人の感覚からすると、
 ・なぜ、そこまで株価上昇にCEOや経営陣が拘るのか?
   (まずは経営の安定性や成長性、株価は後から着いてくるもの)
 ・すでに十分過ぎるほどの高額報酬を得ているのに、
  さらにストックオプション等高額の株価連動報酬が欲しいのか?
と思うのではないでしょうか?

そこには、経営者・経営陣を株価上昇に向かわせる仕組み
そして、報酬の多い・少ないが経営者としての自分への評価そのもの
特に、前任のCEOが名経営者と謳われていたのであれば、彼を超えるためには株価をさらに上昇させて、自らの報酬も高めるしかない。
となっているようです。

つまり、株価至上主義と高額報酬経営者は共犯関係にあると言えるのです。
そこに米国巨大企業の躓きの一端を見ることができるのではないでしょうか。

きっかけの一つは、80年代に米経済界に吹き荒れた企業合併・買収(M&A)の嵐だ。敵対的買収をはね返すには株価を上げるのが早道だ。経営者を株価の上昇に熱心にさせるにはどうしたらよいか。
そこで登場したのが、あらかじめ決められた価格で自社株を購入できる権利(ストックオプション)を経営陣に与える手法だ。
この権利を持てば、株価が上がれば上がるほど大金を手にできる。
経営に株価至上主義が広がり、右肩上がりの株式相場とともに、経営者の報酬もうなぎ登りになった。(中略)

 「米国では報酬の多い少ないが、社会的認知度を測る重要な指標になっている。勲章みたいなものだ」 だから、CEOのトップ集団では、一生かけても使い切れない報酬がまかり通る。

asahi.com 2009年1月9日より
 

 

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