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組織開発(2):経営学の世界では

前回に続き、今回は経営学の世界において、組織開発を理論的に発展させた3名の代表的な識者について紹介します。

エドガー・シャイン 教授

前回紹介したOD Network Japanのサイトでも、冒頭にエドガー・シャイン教授の名前が真っ先に出ています。

組織開発の有名な研究者であるエドガー・シャイン1965年に記した著書『組織心理学』の中で、組織を「ある共通の明確な目的、ないし目標を達成するために、分業や職能の分化を通じて、また権限と責任の階層を通じて、多くの人びとの活動を合理的に協働させることである」と定義しています。

他に検索してみると、国内に「エドガー・シャインポータルサイト」という彼の著作や講演ビデオ、インタビュー記事を紹介しているサイトもありました。

MITスローン経営学大学院の元教授のエドガー・シャイン氏は1928年生まれですので、すでに御年93歳。
元々は心理学の教授で朝鮮戦争の頃には陸軍の研究所で洗脳された捕虜の心理について研究をしていたようですので、時代を感じますね。

その後、経営学の領域に軸足を移され、「組織文化とリーダーシップ」(1985年)を始め、数々の著作、理論を打ち立てています。
研究領域も組織開発から、企業変革個人のキャリア開発など「企業と組織・人」に長年着目され、人材開発の領域では有名な「キャリアアンカー」という概念もシャイン教授が生み出されています。

これらの著作とともに、少し前に出版された「謙虚なコンサルティング」を読みましたが、さらに最近、続編として「謙虚なリーダーシップ」を出され、ますます元気なご様子です。

また、最近、組織開発の分野でGoogleが取り入れたことで注目されている「心理的安全性」(psychological safety)も、元々は1965年にマサチューセッツ工科大学教授である、エドガー・シャイン教授とウォレン・ベニス教授が提唱した概念だそうです。

ピーター・センゲ 博士

次にあげるのは同じくMITスローン経営学大学院上級講師、組織学習協会
(SoL: Society for Organizational Learning )創設者のピーター・センゲ博士です。

1990年(邦訳は1995年)に出版された「最強組織の法則」は世界的なベストセラーにもなり、「学習する組織」というキーワードが一般にも知られるようになりました。

その後、2006年刊に改めて『学習する組織』というタイトルで、多くの企業事例を踏まえた書籍を出されています。

「学習する組織」に必要なディシプリン(学習領域)は上記に5つにあると述べられ、両書籍では組織内で起こる様々な抵抗や組織間の壁、思考停止に対して、これらの5つの観点からその解決策について考察しています。

学習する組織 「5つのディシプリン」
①システム思考
②自己マスタリー
③メンタルモデル
④共有ビジョン
⑤チーム学習

私自身はこれらの著作とともに「U理論」のオットー・シャーマー博士との共著「出現する未来」を読んだことがあるのですが、この領域までいくと、仏教の「悟り」に近いものがありました。同じように感じられた識者も多いようで、野中教授が監訳されたのも頷けます。

ちなみにセンゲ博士も検索すると、彼の数多くの講演ビデオの紹介とともに翻訳されている方のサイトを見つけましたので、紹介しておきます。


野中郁次郎教授

最後に日本の経営学の大家、一橋大学名誉教授 野中郁次郎さんです。
1935年生まれということですから、御年86歳になられました。

1984年に野中教授他6名による共著として出版された「失敗の本質」は日本軍の失敗の原因を戦略、組織面から掘り下げ、日本の組織文化が囚われたがちな構造的問題を解き明かした名著として、いまでも度々引用されています。

そして、1995年に竹内弘高教授との共著で発表されたKnowledge-Creating Company(邦題『知識創造企業』)は、経営学の分野に知識というコンセプトを持ち込み、日本企業のイノベーションのメカニズムを解明した名著です。

この著書で、組織としての知識創造:組織知を生み出すメカニズムとして提唱されたのが有名なSECIモデルです。

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上記で引用したコーチ・エィの鈴木義幸社長との対談の中で、野中先生は以下のように述べています。

「共感」は英語で、エンパシー(empathy)シンパシー(sympathy)と訳されますが、この二つでは意味が異なります。
エンパシーは、直接相手の視点に立つこと、すなわち英語ではput your feet into someone's shoesです。相手のことを、一切、分析などする前に、「我々は同じ人間じゃないか」と、ストレートな本能ともいえるような状態で相手になりきり、「共感」することを言います。
一方でシンパシー「同感」「同情」に近い意味合いで、相手を対象化して分析します。
「知」は、人の「想い」や「やる気」がないと生み出せません。自分のそうした主観を他者全員の客観へと変換していくには、「主体と客体なんて根本的に一緒なのではないか?」という姿勢が大事なんです。そして日本人は、この主体と客体をあいまいにすることにもともと長けているんですよ。

ここでも、野中教授から「東洋の知」に関わるお話が出ていました。

日本人の持つ「チームワークの良さ」「和を以て貴しとなす」の精神は、
同調圧力や場の空気で物事が決まりがちという負の側面はあるものの、
心理的安全性という側面から見れば、あながち悪い面だけではないかもしれませんね。


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