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経営実務のための会計(3):財管一致

皆さんは「財管一致」もしくは「財管分離」といった言葉をご存知だろうか?

制度会計とも呼ばれる「財務会計」とマネジメントを目的とした「管理会計」の数値を整合性を保って、一致させるべきか? = 財管一致

目的が違うのだから、決算修正や連結調整などは考慮せず、数値の整合性が取れていなくても良しとするべきか? = 財管分離・財管不一致

この両者について、実は経営実務の世界で、いまも見解が分かれている

日本大学  川野克典 教授が書かれている 国際会計研究学会 年報 
 「財管一致の現状と課題-管理会計からの考察-」
に、日本企業における現状と今後の課題について、詳細な分析と考察がされているので、興味のある方は一読願いたい。

財管分離派としての意見

さて、私個人としては、多くの企業財務の専門家や会計学の先生方を敵に回したい訳ではないが、「財管分離派」だ。

経営実務の世界で、その時々(できればリアルタイム)での経営(財務)数値を見て、次の経営判断やアクションを常に迫られている身からすると、

1)月次や四半期決算数値は決算調整等を待たずに、概算額でいいから一日でも早く見たい。1週間も後になって確定値を見せられても、次のアクションが打てない。
2)経営意思決定に必要な数字はだいたいが有効数字の上から3桁~4桁くらい。壱円足りともズレることは嫌う制度会計の世界とは目的が異なる。
3)事業部別やグループ会社別の財務状況についても、社内取引や連結調整前の数値で、まずは見ておきたい。売上等相殺前の数値でも、それぞれの組織のパフォーマンスや勢いが見れれば、早めにアクションをとりやすい。
また、相殺前のダブルカウントの数値で評価した方が、社内取引等に伴う利益配分や取引価格問題などの無益な組織間取り分論争を巻き起こさない。
4)決算サイクルごとに原価差額や、さらにIFRSでの営業外収益まで、業績管理会計としての事業部P/Lに反映し、全社合計値と一致させようとしても、そもそも、これらは事業部にとって「管理不能」な科目。
全社P/Lでは必要な議論だが、各組織でこれらの差異分析や反映後の数値で議論をするのは時間の無駄。

等々があげられる。

財管一致派 優位の趨勢

ただ、現実的には多くの日本企業は財管一致を志向しているところが多い。その理由について、川野教授の論文に背景が書かれていたのだが、

(3)分かりやすい会計
欧米企業と異なり,日本の経営者はいわゆる経営者としての訓練を受けた
プロ経営者ではない。
また,全員参加の経営を目指しており,現場からの改善提案,戦略の創発を重視する。
この結果,分かりやすい会計が必要であり,財務会計と管理会計の数値が乖離することは混乱を招く結果となる

ということらしい。(おいおい、経営者はもっと勉強しようよ!っと)

一方、経理部門にも問題が無かった訳ではないらしい。

日本企業の経理部門は,相次ぐ会計基準の変更,金融商品取引法が規定す
る財務報告に係る内部統制対応,移転価格税制の文書化,人員削減(シェアードサービスの採用),連結納税採用,ERP パッケージソフトウェア導入等により,新規の管理会計・原価計算を構築する工数面と精神面の余裕を失っていることがある。
そして,管理会計・原価計算が 2000 年以降,急速に連結決算重視となった理由には,管理会計・原価計算に対し,財務会計が優位性を持っていることが挙げられる。
すなわち,財務会計が変われば,管理会計も変わるが,管理会計単独の変化に実務家は消極的であり,新しい管理会計を開発,導入することよりも,財管一致の維持・継続に投資,労力を投じて来た
日本企業においては,依然として「レレバンス・ロスト」が続いているのである。

これを読むと、どうも、財務の専門家でない人間が財管分離派を主張するのは、多勢に無勢、素人の遠吠え的に感じてしまいます。
それでも、やはり、毎月の月次報告で経理部長や経理の方々に「そんなに躍起になって壱円単位まで、いま合わせることないから」「概算でいいから、早く速報値を教えてよ」と迫っている自分がいます。

さて、次回はこの論文の最後にも引用されている「レレバンス・ロスト」について、書いてみたいと思います。

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