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自分を教育する バティストゥータ

サッカー界に知らない人はいないというくらいに活躍した、元アルゼンチン代表のレジェンド、ガブリエル・バティストゥータがTEDxに登壇していました。

今は現役を退いていますが、現役時代はイタリア、セリエAのフィオレンティーナやローマ、インテルで大活躍した、元アルゼンチン代表のレジェンドです。

バティストゥータがどのようにして世界的スーパースターに成り、トップレベルで長くプレーする事ができたのか?彼の考え方やメンタリティーに是非触れてみて欲しいと思います。 

彼が人生を通して学んだ、「重要な3つのこと」はとても興味深い内容です。「El poder de la disciplina(自分を教育する力)」をまとめてみたので、楽しんでいただけたら幸いです。

<プロフィール>

ガブリエル・オマール・バティストゥータ。元サッカー選手。
アルゼンチン、サンタフェ州出身。ポジションはフォワード。90年代を代表するフォワードの一人で、世界的に活躍した。12年間イタリアの、フィオレンティーナ、ローマ、インテルでプレーし、セリエAの外国人最多通算得点記録を保持。また、アルゼンチン代表にも継続的に選抜され、歴代2位の得点記録保持している。現役引退後はオーストラリアに移住し、アルゼンチンにて建設会社を経営する。出身地である母国のサンタフェ州レコンキスタ近郊に複数の農場も所有している。​

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あれは朝の5時だった。雨が降っていて寒かった。
その時僕は16歳くらいだったかな。
朝起きて、ヤカンを日にかけた。
マテ容器にマテ茶の茶葉を入れてボビージャ(マテ茶に使うストロー)をセットした。そしてブラシと靴磨きクリーム、スウェードの布を取りにいき、靴を磨いた。毎日のように父親が起きた時、美味しいマテ茶を飲んで、磨かれた靴を履いて仕事に行けるようにね。
いつもと変わらない1日の始まりだった。

しかしあの日は、僕の人生の中で、最初の重要な決断を下した日でもあった。僕はあの日、自分と家族のためにもっと何かをしなければいけないと心に決めたんだ。けど、明確に何をするのか、というとこはわからなかった。
もし、誰かが私に「何をするのか?」尋ねていたら、特に理由はないけど決めたんだと答えていたよ。誰かがスポーツでバレーボールが好きというような感覚と一緒さ。ただそうするって決めたんだ。 

今日は、僕の話しが何かしらでも君たちの役に立てれば嬉しいかな。
僕の人生と常に隣合わせだった、3つの事を君たちと共有したいと思う。
3つの事はとてもシンプルなんだけど、僕にとっての基盤となるものだった。

(1)明確な目的を持つこと

(2)謙虚さ

(3)自分を教育する

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明確な目的を持つ

あの雨が降っていた朝、僕は自分の目的にフォーカスした。
プロサッカー選手になること。
君たちには、まだその時には、明確に何をすればいいのかわからなかったと言ったよね。
けど、違った未来を築くために「自分にできることは全てする」ということだけは心に誓っていたんだ。
80年代とか90年代頃は、サッカー選手を夢見ている子供の99%が夢を叶えられないという現実があったんだ。99パーセントが失敗する。
僕は毎日練習して、やらなければいけなかった勉強もしていたんだ。
僕のような子供の1%しか夢を叶えられない事も分かっていたよ。

そこから1年半後にやっと最初の契約を結ぶ事ができたんだ。
自分が本当にプロになれるのか?という疑いでいっぱいだったよ。
家族や友達、彼女を故郷のレコンキスタに残して、約片道10時間かかるロサリオという遠い街に一人に「プロサッカー選手になる」という夢を叶えるために出てきたんだよね。
1年半の間、この努力や犠牲が、僕の夢を達成してくれるなんていう保証は全くなかったよ。けど、自分の夢を叶えるために努力し続けるしかなかった。

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謙虚であることとは

僕が子供の頃一番学びが多かった時間は、日曜日に家族みんなで団欒している瞬間だったんだ。そこで、僕の祖父母や父、おじ、そして彼らの友人から人生での物語を多くを聞いたね。
そして、彼らの物語の中にはいつも何か自分の問題を解決できる種があったんだ。数えられないくらいに多くの物語があって、その多くはハッピーエンドが多かった。もちろん、そうじゃない話もあるけどね。
そこで、謙虚に人の話を聞くことを学んだよ。
すでに知っていると思っていた事を、実際には知らない事に気づいた。
他の人の話しや意見が、自分を取り囲む状況を解決してくれるんだよね。
人の話しには、常に問題解決のヒントがあるということ。
その時から、その考え方は常に自分の中で持っているようにした。

僕のサッカーキャリアが頂点に近づいている時の話しだ。
僕を悩ませることになった監督と出会った。
彼のチームでプレーするために、僕はトレードマークであったロングヘアを切らなければならなくなったんだ。もちろん初めは冗談だと思ったよ。
その時僕はすでに、6〜7年イタリアでプレーしていた。
あのロングヘアーは、僕にとっては歩くとか、服を着るといったことのように自然なものだった。ロングヘアはトレードマークでもあったから、それを切らなくてはいけないと言うのを聞いて驚いたね。

謙虚でいること。
さっき、人の話しを聞くということについて話したと思うけど、
謙虚さは人のエゴをコントロールしてくれるんだよ。
髪を切れと言われたあの時代の僕は、エゴの塊だったことに気が付いたんだ。ゴールをたくさん決めていたし、アルゼンチン代表でも中心選手としてプレーしていた。調子にも乗るよね。
その時、謙虚さが僕を助けてくれたんだ。
謙虚さが僕のエゴをコントロールしてくれた。
だから髪を切ることに決めたんだ。
僕の目標はロングヘアをキープすることではなくて、アルゼンチン代表で歴史を作ることだった。
その目標を達成することは、自分のスタイルをキープすることよりも何倍も大きなものだったんだよね。

もう一つ似たような話をしようか。
僕がフィオレンティーナでプレーしていた時のこと。
ローマが僕を買いたがったんだ。
当時の僕は、フィオレンティーナでは王様に近いような存在だった。
プレーが悪い時以外は、やりたい放題にできてたんだ。
僕が何をしても、誰も何も言ってこなかったよ。
イタリアに来て6〜7年間の間に結果を出したていたから、チームメイトからリスペクトを勝ち取っていたんだ。
ローマは、なんでも提示してきたよ。
キャプテンマークに、背番号9番も空けると言ってきた。
それ以外のことも沢山、僕に提示してきたね。
「リーグ制覇のために戦う」という、僕が一番欲しかったことも約束してくれた。そこで謙虚が出てくる。
そして、謙虚さが僕にこう言ったんだ。
「ただ単にキャプテンマークをぶら下げて、ロッカールームやチームに入ることに価値はないぞ。それよりも、頼れる人間になるんだ。行動で示せ。
喜んでハードワークして、他の選手たちと一緒に学ぶんだ。」
そのおかげで、キャプテンマークはトッティに返したし、背番号9番もモンテッラに返した。
そして、僕はリーグ制覇という目標にフォーカスした。
その目標は僕にとって、キャプテンマークを巻くことや背番号9番のユニフォームを着ることよりも何倍も大きなものだったんだ。

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自分を教育する

僕のサッカー人生の中では、足首の痛みとずっと向き合っていた。
足首が僕の弱点だった。毎日常に痛かったね。とても苦しんだよ。
朝起きて地面に足をついた時、今日はどのくらい痛いかを確認するところから僕の一日がスタートするんだ。
今日は問題なくトイレに行けるかな?という具合にね。

ここから大事な話をするね。
この痛みは僕を打ち負かすことはなかった。
痛みがあっても常に前に進み続けた。
リバープレートにいた時の話。
「苦しくても、前に進み続ける」というメンタリティーを学んだところでもある。僕は、チームメイトと同じかそれ以上にトレーニングしていたんだ。
けど、6ヶ月間もの間メンバーに入れなかったんだ。
ハードにトレーニングしても、日曜日が来るとメンバー外。
そんな日々を6ヶ月間過ごしていたよ。
もちろんその間には何回もこう思った。
僕を育ててくれて、プロとしてデビューさせてくれたロサリオに戻ろうかとね。
けど僕は、何がなんでも成功したかった。
だから、弱音なんて吐いていられなかったんだ。
成功するには、今よりも高い要求を自分に課す必要があったし、今の自分が持っていないくらいの力を出さなければいけなかったんだ。
毎日、自分の限界に挑戦し続けたよ。
繰り返し、繰り返し、繰り返し。
ずっとそうやってきた。

この「自分の目標のために前に進み続ける」メンタリティーを持ち続ける事ができたから、痛みにも負けることはなかったし、失敗した時も前に進む事ができたんだ。

精神的に自分を教育すること。
その自己教育で、自分のエゴが行きすぎてしまうことを許す事はなかった。
自分が望んでいる高い目標を達成するために、自分の精神を教育したんだ。

フィジカル的に自分を教育すること。
どんなに足首が痛くても毎日トレーニングを欠かさなかった。
毎回、これが最後の練習になるかもしれないという気持ちを持って練習していたし、明日はないという気持ちで練習に取り組んでいたよ。

まとめ

自分を教育すること。
それは僕が毎日やっていた、毎朝起きて、マテ茶を用意して、靴を磨くのと同じようなものさ。と最後に言ってってこのTEDxを締めました。
マテ茶はアルゼンチンの文化であり、皆が毎日飲む飲み物です。
アルゼンチン人の生活には欠かせません。
朝起きてマテ茶をいれる行為と、努力することを並列に語るところから、一流の思考が垣間見えますね。

彼にとっての努力は、目標達成のために「やるべきこと事」であったと同時に、「息をするように自然なこと」だったんじゃないでしょうか。
努力を目的としがちな日本社会ですが、「努力は、目的のために自然とするもの」であり、決して目的ではないということ。
そして、苦しくても前に進み続けていれば、道が開けるということ。
しかし、ただ苦しむだけではダメで、自分の限界にチャレンジするということ。

そして序盤に言っていた、「明確な目的を持つこと」「謙虚でいること」でも大切なことを教えてくれました。

僕たちは往々にして、目的と、手段やそれに付随するもの(ここでいうキャプテンという地位や背番号)を混同します。
しかしそれらは、目的を達成する段階でついてくる役割であって、ゴールではないということです。
「自分の目的を達成するためにしている事は適切か」「目的と、手段や役割を履き違えていないか」を常に自問自答することが大切なんだよと。

そんなことを、バティストゥータは僕たちに教えてくれている気がします。

元動画がこちら。


別動画:中田英寿氏との対談(日本語字幕付き)
話している内容は別ですが、バティストゥータのサッカーに対する考え方や、現在取り組んでいるプロジェクトの話も聴けるので、ぜひ見てみてはいかがでしょう?


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