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家庭における子どもの成長保障

1月末に佐賀県で家庭教育支援をしているリーダーの皆さんにオンライン養成講座をしました。その内容の中から講演と質疑応答部分の一部をご紹介します。講座ではスライドで写真などを用いながらより丁寧に解説しましたが、こちらは省略のある文字情報になっています。講演や研修は、対象や組織のご要望に合わせてオーダーメイドで作りますので、noteには、一般的に共有できる部分を出しています。どうぞご活用ください(その際は、出典を書いていただけますように)。

親と子の未来を育むためにできること~家庭教育支援の「今」を考える~
子どもの健やかな育ちに大切な大人の関わり

               一般社団法人ジェイス代表理事 武田信子

家庭教育ってなんだろう・・・文部科学省HPから
「家庭教育は、すべての教育の出発点。
 家族のふれ合いを通して、子供が、基本的な生活習慣や生活能力、人に対する信頼感、豊かな情操、他人に対する思いやり、基本的倫理観、自尊心や自立心、社会的なマナーなどを身につけていく上で重要な役割を果たしています。例えば、毎日の生活の一場面。皆さんのご家庭では、どのように過ごしていますか?
・いつも家族で「おはよう」「ただいま」「おやすみ」などのあいさつを習慣にしている。
・早寝早起きを心がけている。朝ごはんは家族一緒に食べる。学校での出来事などについて、子供とよく話をする。
・テレビやゲームの時間などのルールを、親子で話し合って決めている。
 家庭は子供たちが最も身近に接する社会。常に子供の心のよりどころとなるものです。少し立ち止まって日常の家庭での生活を振り返ってみませんか
社会全体で家庭教育を支え合う
 家庭教育はこれからの未来を支える子供たちへの大切な贈り物です。そして、子供を育てることは未来の日本を支える人材を育てる重要な営みです。
 保護者の方々の頑張りに対して、地域社会や学校、行政、企業等も力を合わせ、子育て家庭の「支え」となり、社会全体で子育てや家庭教育を応援していくことが求められます。社会は家庭の応援団
                    ・・・文科省HP引用ここまで

(数時間後の追記)
 家庭教育って聞くと、家で宿題をやらせること、とか、躾けること、とか、そんなイメージが先行するし、文科省のここでの記述も挨拶し合える家族、とか、早寝早起き朝ごはん、とか、ルールや決まりや倫理重視、みたいなイメージの説明なんですよね。それは結果としてそうなるのであって、その前提に、ダメな自分も丸ごと受け止めてもらえる安心感がないと始まらないように思うのです。保護者の頑張り、って書いてあるのだけれど、家庭教育って頑張らなきゃいけないものなのかなあ?! 
 楽しく過ごして適当に生きて、でも日々のちいさな家事手伝いや会話の積み重ねが子どもを育てるのではないかと。そのやりとりが温かかったら、子どもはそこそこに育つんじゃないかなあと、私などは思ってしまうんですけれど。

私の考える家庭教育 
 よく見知った人々に囲まれて生活する安心な場としての家庭で行われる子どもの成長保障。
 ①子どもが、日々の家庭生活(多岐にわたる家事、食事、睡眠、家族との交流、外出など)を通して学べる条件を整えること。
 ②学校教育と異なる、家庭の安全に守られた空間の中で、家族とのびやかに時を過ごし(レ・クリエーション、リラクゼーション、遊び、自由な感情表出など、子どもの権利条約第31条参照)、外の社会へ出ていくエネルギーを供給すること。
 ③子どもが、地域の多様な人々に出会い、様々な体験を重ねて、自分の生き方の幅を広げていく機会を保障すること。
 家庭では、自由度が高い生活の中で、人が誰でも生まれつき持っている主体性や好奇心を剥奪・阻害されずに過ごせることが求められる。

     でも、そんな家庭教育はとても難しい、から、
    「みんなで育ちあう地域」が必要なんですよね。


大人の価値観 → 子どもたちの育て方 に反映される

 大人たちは日本で育って身についた自分の価値観でよかれと思って働きかける ⇒ 今、日本の子どもたちの育ちの現状はどうなっているか?
 成功:学力 勤勉 道徳性 従順さ リテラシー…          
 問題:自殺 不登校 ひきこもり うつ いじめ 学級崩壊…
大人たちは子どもたちに何を求め、どのような結果を期待してきたか。
大人たちが正しいと思って子どもたちに教えてきたことは正しかったのか。
教え方が足りないから、甘えやわがままが増長しているから、もっと厳しく教えなければならないのか。

   今までの価値観で、
   家庭教育=しつけ、家庭教育支援=子育て支援と考えていませんか。
   ちょっと立ち止まって、
   一つ上の項に書いた「私の考える家庭教育」と比較してみて下さい。

日本の子どもたちはウェルビーイングに生活できていると思いますか?
 子どものからだの調査2015 結果報告より 
 子どものからだと心 全国連絡会議の資料
 野井真吾著 『子どもの”からだと”クライシス「子ども時代」の保障に向けての提言』かもがわ出版 2021

みんな知らずにやっている 他人ごとではない

大人から子どもへのmal-treatment

大人にかかるプレッシャー
 子どもの育ちは環境の影響を受ける  
 親や教師は子どもの育ちに関わっている  
          ↓
 育てた人が問われる。まるで成績評価のように比較する、される。
 子育てや教育の成果は、子どもの進学や就職、豊かな生活で評価される。
          ↓
     子どもを良く育てたい ⇒ 育てなければならない
                   ⇒ 子どもにかかるプレッシャー

子育てにおいてマルトリートメント(不適切な扱い)が起きている!
 国連子どもの権利委員会からの勧告

子どもへのマルトリートメントはいつの時代にも起きている。

 児童労働 機能不全の親 社会状況(戦争、働きすぎの父親、貧困・・)
現代日本のマルトリートメントは? 
               特に、教育をめぐる過当競争 やりすぎな状況
    子どもの商品化←子どもの将来が心配
    エデュケーショナル・マルトリートメントの発生
      
日本の学校教育のあたり前を疑ってみよう
 これまで見てきた海外の学校教育の例

問題への対応と予防


大人から子どもへのマルトリートメントの予防 ~価値観の問い直し~
 ↓
一般社団法人ジェイス 価値観の点検と転換
日本の子どもの養育環境のためのアクション マルトリートメントの予防
Japan Action for Children’s Environment Prevention of Maltreatment
 https://jace-pom.org/



事前質問より
Q1)ほとんどの家庭(親)で不適切な子育てがなされていると思います。
  そのような親に気づいてもらうにはどのような接し方がいいですか?

知らないだけ、気づいていないだけで、その親が悪いわけではありません。
家庭教育支援の立場でできることは、責めずに行動を獲得できる場や機会を作ることではないでしょうか。
1 : 親たちが学ぶ機会を作ること
① ニュースのような形で皆に対して普段から良質の情報提供をすること。
② 勉強会を企画すること。
③ 子育てに困っている話が出たときにさりげなく話題にして、勉強会などに誘ってみること。 
2.親たちが自然に学び取ることのできる地域を作ること
① 情報交換できる場(居場所、たまり場)と関係を作ること。
② 具体的な代替行動の体験の機会を作り、成果を実感してもらうこと。
3:「親がなくても子が育つ」地域を作ること
① 子どもたちに他の家庭の生活を見せる機会を作ること。
② 子どもたちが学ぶ多様な環境を地域につくること。

Q2)人を大切にできる社会にならなければと思います。

相互リスペクトがベースにある対話の練習から始めましょう。
対話の文化へ:4つのD(ディべート(討論)、ディスカッション(議論)、ダイアログ(対話)、ダベル(おしゃべり)の違いを知る。  

Q3)ゲーム依存症の児童に対する症状改善、依存ぶり返しの抑制について  

 依存症は自分の意志で改善できるものではありません。
 アルコール依存や薬物依存と同様に、ゲーム依存はWHOから疾患として認められた病気です。治療と継続観察が必要です。
 デトックスのように、メディア接触と隔離されたキャンプに一か月入れると効果があると言われていますが、日本にはまだほとんどありません(韓国はソウル市内だけでも数カ所の対策センターがあります)。キャンプに入れても学校生活に戻ると元に戻るとも言われています。
 依存症にならないためには、ゲームを始める際に、本人とメリットとデメリット、リスクについてしっかり話し合う時間を持ち、ときどき点検することを合意しておきましょう。
 また、依存状態になり始めたとき、本人を責めるのではなく(病気になった人を責めませんよね)、状況の改善をサポートしたいと伝えて一緒に取り組みましょう。
 また、ゲーム依存は、他の生活が充実していないとき、何かから逃避したいときに起きやすいので、やりたいことや友達をスクリーンの中に求めなくても済むように、実生活、実体験が十分にできる生活を保障しましょう。
 実際のところ、大人もメディア依存になっていると思います。まずは家族の中で、メディアから離れて皆で過ごす時間を持ちましょう。
 記録をつけてコントロールする方法など、治療の方法はありますので、地元の専門医を見つけて相談してみましょう。NPO法人子どもとメディアの情報をチェックしているといいかもしれません。
 なお、基礎知識としてnote の投稿が参考になるかもしれません。
「子どもの発達・健康に対するモバイル機器の影響と対応」(2020.2.29)
https://note.com/nobukot/n/n82afa7b7bb25
「普通の子どもとスマホ」(2020.3.3)https://note.com/nobukot/n/neb1a005321d0
 

Q4)子ども二人(小学三年生と小学五年生)が特性の異なる発達障害を抱えています。二人には辛い状況になる場面に違いがあり、板ばさみになる時もあって、どうしたらいいのかと私もあせってしまいます。

(一般論)これから一生付き合っていく兄弟です。2人はお互いの特性を理解していますか。違う存在、たとえば、イチゴとリンゴが同じ味を出すことはできません。まず人には特性、行動特徴、くせ、向き不向きがあることを互いに理解して、ぶつかったときにどうすればいいかを一緒に考えていくようにしましょう。ぶつかることは悪いことではないし、辛い状況を体験することも必ずしも悪いことではありません。それをどう乗り越えていくかを工夫していくことは人生において大切なことです。兄弟でそれが経験できるとしたら、社会に出てから問題を生じるよりもいいかもしれません。摩擦を生じないようにするのではなく、起きた摩擦にどう対応するかを2人で考えていけるように、大人はサポート役に回りましょう。

(実際)具体的にどんな場面を「板挟み」と表現しておられるのでしょうか。→学校に行かなくていいと言われている子と、最近学校に行きたくなくなっている子。行きたくない子が、行かなくていい子をずるいと言う。
 上記の対応に加えて、学校に行きたくなくなった理由の把握とその問題への対応が必要でしょう。発達障害というよりは、自分に合わない環境への不適応が「問題」とされてしまった事例のように思います。

Q5)子育て支援の仕事に携わっていますが、自分自身がずっと親との不和に苦しみを抱えています。ひと昔前に「アダルトチルドレン」というキーワードに出会い、いま「マルトリートメント」というものに出会い、自分の中のつらさ・苦しさがなくなるものではないのですが、このような思いを抱えた者が支援者であってよいものか、偽善ではないのかと、苦しくなります。

 自分の経験をもとに活動している方は大勢いらっしゃいます。
 私も含めてそうだと思います。そのこと自体に問題はありません。
 ただ、自分の問題に整理がついておらず、利用者さんの状況に自分が揺れ動くことがしばしばあるような場合は、まず自分の問題解決や感情コントロールができるようになることが先決だと思います。
 自分の癒しのために誰かのためになろう、というのはメサイア(救世主)・コンプレックスと言います。そこからは抜け出しましょう。
 現場の身近な人の中に安心して話せる人がいたら今の自分できちんと対応できているか聞いてみてはいかがでしょうか。また、揺れが生じたときにサポートに入ってくれる人はいますか。もしいないとしたらそういう方がいる場所で仕事するようにしましょう。

Q6)質問者(学童保育支援員)
 学童の3年男児(一人っ子)が、クラスで担任と上手くいかなかった日によく暴れる。支援員は、男児本人や周りの子ども達に被害がでない範囲は黙って大目に見て、見守るスタンスをとっている。しかし、学童支援員(10数人)の中でも意見がわかれ(すぐ注意した方かいいと考える指導員もいる)、周りからは甘いと言われる。質問者は、学童は家庭の延長と考え、その子にとって「学童」が自分の気持ちを吐き出す場となっているから、また、一人っ子という家庭環境もあって、荒れた気持ちを態度で表しているのではないかと思う。対応についてアドバイスが欲しい。

1.問題は子どもではなく、子どもと担任の関係のようです。何が問題になっているかを把握して、その問題に対応することが解決への道になるでしょう。
2.荒れた気持ちを態度で表すのは、誰でも普通のことです。その態度は、子どもからの救助信号ではないでしょうか。助けてくれという叫び声ですね。そんなに荒れた気持ちにさせるのは何なのか、本人に今日はどうだった?と毎日声をかけて共感し(同情でも同意でもなく)、そのような中でも頑張っている彼を支える関わりをもつことが大切です。そして聞き取った問題の根本的解決(学校との連携、担任の理解促進、親の協力)に取り組みましょう。
3.子どもに事件を起こさせることは、子どもにとっても辛いことになります。叫び声が聞こえているのに放置していたら、さらに大きなことをするかもしれません。本質的な問題を解決する必要があります。これを逆に、表面的に子どもに我慢させる対応を取ったら、見えている荒れは沈静化するかもしれませんが、この子どもは、大人全般に対する信頼をなくすようになり、後にもっと大きな問題が起きるでしょう。
4.自傷他害の恐れがある場合は本人を守るためにそれをさせないことが大切です。それが本人を守ることになるということを本人にも伝えましょう。吐き出させてそれで済むような問題ではなさそうです。
5.学童支援員たちの子ども理解を深める方略を学ばなければなりません。また、甘いと言われたら、自分がなぜそうするかを合理的に説明できるようになっている必要があります。
6.一人っ子だからと言って問題を起こすとは限りませんが、少人数家族で生活してきたことによって、対人コミュニケーションのうまい取り方を学ぶ機会がなかった可能性はあるかもしれません。
7.来年度、担任が変わる可能性があるとしたら、校長に配慮を依頼するのも一つの手でしょう。
 この問題の根本的解決には「学校との連携、担任の理解促進、親の協力」が必要です。
 変えるべきは子どもではなく、子どもの周辺環境なのです。
 ただし、子どもに心理的な支援が入ることで落ち着く場合もあるので、
教育センター等のカウンセリングなどの活用も検討してみましょう。

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