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読書メモ:経営行動-第6章 組織の均衡

「万能人」ハーバートA・サイモン。ノーベル経済学賞受賞者にして人工知能のパイオニアによる経営組織における意思決定の研究!
ハーバートA・サイモン/ 訳者:二村敏子他(2009年7月初版)


第6章:組織の均衡(1945年初版の内容から)

 第6章のタイトル「組織の均衡」の概念は、少し解りにくい。まず、個人が組織に参加する動機は、組織における自分の活動が自らの個人的な目標に直接・間接に貢献するからである。組織の目的(の集合)が個人にとっての価値を含んでいる場合は、組織への参加は自らの個人的な目標に「直接」的に貢献する報酬をもたらす。そうでない場合、組織への活動の提供に対する見返りが「間接」的な報酬となり、組織に参加する動機となる。

  1. 組織の目的達成から直接もたらされる個人的な報酬

  2. 組織により提供され、組織の規模や成長と連動する個人的な誘因

  3. 組織により提供されるが、組織の規模や成長とは必ずしも連動しない個人的な報酬

ここでサイモンは、組織が提供する製品やサービスを購入する顧客もまた組織の参加者である、と捉えている。例えば、企業組織の場合、顧客は1、企業家は2、従業員は3のモチベーションによって組織に参加する。組織のメンバーは、これらの組織が提供する誘因の見返りとして、組織に貢献するのである。顧客は、企業の提供する製品やサービスに対して、対価を支払うことで貢献する。従業員は、給与に対して、労働を提供することで貢献する。企業家は、企業が成長に伴って提供する収益機会に対して、資本や経営を提供することで貢献する。「組織の均衡」とは、このような組織が提供する誘因と組織が提供を受ける貢献が均衡していることであり、そうした均衡の下で組織は存続し成長することができる。

組織参加者のタイプ

 組織に参加するメンバーの分類は、「誘因」により分類する方法以外にも、「貢献」のタイプによる方法、組織を「統制」する人を他の参加者と区別する方法、などがある。

組織の目的

 組織の目的は、サービスか利益か? 両方である。顧客は、企業の提供するサービスに対して貢献する。企業家やその他の人々は、企業が生み出す利益のために組織に貢献する。

特定の組織のタイプへの適用(誘因としての組織目的)

 特定の組織のタイプにおいて、組織への参加者と、その参加の誘因となる組織目的の関係を例示する。

  1. 企業:企業が製品・サービスを提供すること(企業の組織目的)が、顧客にとっての、組織に参加(製品・サービスの購入)する目的である。

  2. 政府機関:組織目的が、議会と市民にとっての参加の目的である。「議員」が企業における顧客に該当するが、異なる点もある。①議員は組織に対して法的権限を持つ。②議員にとってのモチベーションは彼らの固有の地位に基づいている。(政策決定には公共選択の問題を含むことが示唆されている)

  3. ボランティア組織:ボランティアは、金銭の代わりに組織に奉仕するが、企業における顧客と共通する特徴を持つ。組織目的(特定のサービス提供)は、メンバーにとって組織に参加する誘因となるが、参加者にとって誘因の一部分でしかない。それは、①貢献者の多くはパートタイムである。②多様な参加者が組織目的について多様な解釈をしていることが多い。などの事情による。

組織の規模と成長から生じる価値

 個人が組織に参加する誘因としては、1)給与など経済的報酬、2)組織内での昇進機会、3)組織の規模と成長がもたらす価値、である。3は、組織存続のための価値ともみなされる。企業家は3の価値を重要とする。「経済人」としての経営者が重視するのは利益であるが、「組織の規模と成長」と「利益」を区別することにはあまり実際的な意味はない。むしろ、企業家が関心を持つ権力や名声など非物質的価値は組織存続と密接に関連している。また、2に関心を持つ従業員にとっても、3は重要な価値を持つ。組織の規模と成長は、名声と個人としての成長を伴う昇進機会を、より多く提供することになる。

組織目的への忠誠心

 一方、組織の「目的」への忠誠心と、「組織」への忠誠心は区別される。前者は目的の修正に抵抗し、後者は組織存続や組織成長のための機会主義的な組織目的の変更を支持する。営利組織に特徴的なのは後者のタイプであろう。前者の組織目的への忠誠心が顕著に現れるのは宗教組織や革命組織などである。しかし、いずれのタイプの忠誠心も、公的および私的、営利及び非営利など、様々な種類の組織において見られる。

組織の均衡

 組織の支配集団は、組織の意思決定に用いられる価値基準を設定する権力を行使しする。組織の支配集団とは、組織への参加者のメンバーシップの要件を決める権力を持つ集団である。支配集団は自らの個人的な価値を追求するが、組織の方向性を自由にできるわけではない。「組織の均衡」すなわち、他の参加者の組織への貢献を保持するため、組織が十分な誘因を提供できるように均衡を達成する必要がある。従って、支配集団の多くは、組織の目的ではなく、機会主義的すなわち組織存続や組織成長の目的によって動機付けられているように見える。

営利組織における均衡

 営利組織は機会主義的であるにも関わらず、一般的に組織目的を維持しようとする傾向にある。その背景理由は、「埋没費用」、「埋没資産」(特定領域でのノウハウ)、「のれん」の存在である。

政府機関における均衡

 組織目的達成のためには財源が用意されるため、組織の均衡が意識されることは少ない。そのため、組織目的が組織存続のために機会主義的に変更・修正されることはないように思われる。しかし、実際には管理集団が、組織存続の目的によって動機付けられ、彼らの裁量の範囲で営利組織の支配集団と同様の行動を取ることは少なくない。

コメンタリー(1997年版)

 組織の存続と成功は、組織のタスクを実行するのに必要な貢献を確保するために、メンバーに十分なインセンティブを提供できるかに依存する。組織へメンバーが参加するインセンティブは、経済的報酬だけではなく、精神的あるいは社会的な報酬を含む。後者については、仕事に対する愛着あるいは疎外が注目される。これが第6章のメインテーマである。

 第6章では、組織メンバーの誘因と貢献、そして組織均衡に対するそれらの影響について論じている。組織理論は、組織メンバーが組織への参加を決定する理論、これらの人々による組織内での意思決定の理論、という2つの下位部分に分けられる。第6章はその前者に焦点を当てる。

 結局、組織の目標とは何か。実際に、組織での決定が一つの目標に向けられていることはほとんどない。むしろ、行為の目標として直接知覚されるのは「制約の集合」であり、決定は全ての制約を満たす行為の方向性を探索・発見することに向けられている。例えば、「利益」は企業にとって主要な目標の一つであるが、企業の組織メンバーによる意思決定が全て「利益」の獲得に向けて行われているわけではない。しかし、組織の意思決定メカニズムは緩やかに結びついており、大部分のサブシステムには「利益」は制約として取り込まれているのである。企業組織は利益獲得に方向づけられているとはいえ、このように間接的に、その意思決定が利益に向けられるのである。また、企業組織が利益獲得の目標に向けられているとしても、必ずしも、組織メンバーの全てが企業の利益目標によって動機付けられていることを意味しない。

 実際、個人の目標と組織での役割は区別しうる。組織の決定の多くは個人の動機には影響されないし、役割行動における個人間の差異は個人の目標における差異よりも大きい。(個人は組織においては、個人としての目標はどうあれ、組織に従順であり求められた役割を果たすのである。組織としての決定を下す役割においても、組織として求められる決定行動を取る、ということだ。)プロフェッショナルへのトレーニングは、役割において取り組むことが求められる問題に対して、問題解決のための決定に必要な特定の技術や知識を個人に提供する。すなわち、組織メンバー個人が組織として求められる決定行動を取れるよう、支援することを目的としている。

2023年12月28日

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