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侠客鬼瓦興業57話「私、信じてるから・・・」

めぐみちゃんは鋭い眼を僕に向けて光らせていた。

(すべてお見通しだったのか・・・)
僕は青ざめた顔で再び彼女の顔を見たその時だった。キッと睨みすえていた彼女の瞳から光るものが・・・
「どうして・・・?」
光るもの、それは彼女の大粒の涙だった。

「どうして、そんな嘘をつくの?」
「えっ!」
「あの人たちのこと、どうして嘘をつくの?」 
「嘘って、あの・・・」
僕は救いを求めるように、隣の銀二さんのことを見た。しかし銀二さんはこりゃもう駄目だと思ったのか・・・、おじぞうさんのような顔でじーっと僕を見ていた。

「吉宗くん、これってさみしすぎるよ」
「・・・・・・」
「私、まっすぐで、嘘のない吉宗くんのことが好きなのに、大好きなのに・・・」
「め、めぐみちゃん」
「吉宗くんの目はいつでも正直で、透き通っていて、純粋で、私そんなあなたの目が大好きで・・・、なのに今の吉宗くんの目、違う人の目だよ」
「違う人の目?」
僕は締め付けられる思いで、彼女の泣き顔をみつめていた。

「違う人、私が好きになった吉宗くんじゃない、全然違う人の目だよ」
「・・・・・・」 
「私、怒ったりしないよ?吉宗くんのこと信じてるんだから・・・、怒ったりしないんだよ」
「え?」
「だって、吉宗くんだって社会人なんだから、付き合いで仕方ない事だってあるじゃない、だから怒ったりしないのに・・・、なのにこそこそ嘘をつかれるのって何だかさみしすぎるよ」
めぐみちゃんは肩を震わせて泣きながら、僕をじっと見つめていた。

(こんなに一途なめぐみちゃんを傷つけてしまうなんて・・・)
僕は彼女の前に一歩近づいた。 
「めぐみちゃん、ご、ごめん、僕・・・」 
「・・・・・・」 
「ごめん、僕、嘘を」 
「吉宗くん」
「あの人たちは、じ、実はその・・・」
気がつくと僕の顔は、大量の涙と鼻水があふれかえっていた。

「実は、ぐしゅ・・・」
「・・・・・・」 
じゅる~、じゅじゅじゅ~!
僕は鼻水をすすりながら、めぐみちゃんの事を見つめた。

(よし、言ってしまおう!僕の口から真実を言ってしまおう)

「めぐみちゃん、実は僕」
とその時、彼女は指先で僕の口をそっとふさいだ。
「うぐ!?」

「ううん、いい、もういいよわかったから」
「え?」
「今の吉宗くんの目で、心、全部わかったから」
「でも、めぐみちゃん?」
僕はきょとんとした顔でめぐみちゃんを見つめた。

「今の吉宗くんの目、嘘のない真実の目だった・・・、私のことを大好きって言ってくれたあの時の綺麗な目だった」
「めぐみちゃん」
「だからもう、それ以上は話さなくていいよ、ごめんね変なこと言っちゃって、こまらせちゃって」
「いや、あの、でも僕」
めぐみちゃんは静かに人差し指を立てると、ふたたび僕の唇をふさいだ。
「・・・!!」

めぐみちゃんは涙をぬぐうと
「銀二さん!」
今度はムッとした顔で銀二さんを見た。 
「伊集院って、銀二さんが飲み屋さんで使う源氏名だって知らないと思ったんですか?」
「え!?めぐみちゃんそれじゃ・・・」
「知ってるんですよ私、銀二さんは綺麗なお姉さんたちがいるお店では、伊集院薫っていう名前を使っているって」
「あ!それでばれちゃってた訳?」
「そうですよ、最初に伊集院ちゃんってあの綺麗な人があらわれた時から、わかってましたよ、ふふふ」
「はっちゃー」
銀二さんは真っ赤な顔で苦笑いを浮かべていた。
僕はそんなめぐみちゃんを見つめながらホッとする反面
(今までの、緊張はなんだったんだろう)
と拍子抜けした。

「それにしても銀二さんったら、アントニオ古賀だーなんて、変な嘘ついたりしてー、おまけにあの綺麗な飲み屋のお姉さんたちまで、つき合わせちゃって、ふふ、おかしい」

(・・・飲み屋のお姉さん???) 
僕は一瞬めぐみちゃんの口から出たその言葉に、眉をしかめキョトンとしていた。それは銀二さんも同じだった。

「銀二さんも綺麗なお姉さんのいるお店に吉宗くんを連れて行ったくらいで、私が怒ったりすると思ったんですか?」

「え?あ~あああ・・・」
銀二さんは目をまんまるにして驚いた後、にんまり微笑んだ。 
「いやははは、ごめん、めぐみちゃん」
「別に謝らなくっても」 
めぐみちゃんはニッコリ微笑むと、そのまま僕に振り返り
「吉宗くんもおかしい、こんなに深刻な顔しちゃって、涙なんかいっぱいためちゃって、うふふ」
ハンカチを取り出し、そっと僕の涙を拭いてくれた。

「あ、めぐみちゃん、でも、あの・・・」
(ち、違う、違うよめぐみちゃん)
僕は心で叫びながら、たまらず彼女の手をつかんだそのときだった。

「えらい!さすがはめぐみちゃんだー、心が広い!」 
銀二さんが大きな声で叫びながら、めぐみちゃんに話しかけてきた。

「えらいって、男の人なら付き合いで綺麗な女性のいるお店で飲むことくらい、当然のことでしょ」

(綺麗な女性のいるお店で飲むって・・・、違う、違うんだよめぐみちゃん) 
僕は心の中で再び彼女に訴えかけていたその時
バシッ!!
銀二さんが僕の肩を力いっぱい叩いた。
「おい吉宗ー、さすがはめぐみちゃんだなー、参ったなーまったく」
「いや、あの、銀二さん?」
「いやあ、めぐみちゃんはいい嫁さんになるなー、こりゃ参った降参だわー」
「やだー、銀二さんったら」
「改めて白状するよ、あいつら夕べ若頭に連れて行ってもらったお店のお姉ちゃん達でさ、ちょっとめぐみちゃんにばれたらまずいかなーなんて勝手に思ってよーはははは」
「そんな気にしすぎですよ」
めぐみちゃんはニッコリ笑うと僕のダボシャツの袖をそっとつかみ
「私、信じてるんだからね吉宗くんのこと」
「・・・めぐみちゃん・・・」  
「さあ、お仕事お仕事ー!早く仕度しないと人がいっぱい来ちゃいますよー!」
大声でそう言うと、金魚すくいの準備にかかり始めた。

「どうやら、助かった見たいだぞ、吉宗・・・」
銀二さんは僕の耳もとでそっとささやくと
「さーて、こっちもたこ焼きの仕込みにはいるぞー!」
そう叫びながら三寸の中へ入っていった。

(信じてるんだからねって・・・、めぐみちゃん)
僕は透き通るような彼女の美しい瞳を静かに見つめた。
(こんなにやさしくて、可愛くて、純粋に僕を想ってくれている、めぐみちゃん)
彼女に対する熱い想いは、さらに倍、その倍と大きく大きく膨れ上がっていった。と同時に、 
(ご、ごめんよめぐみちゃん、ごめん・・・)
締め付けられる罪の思いも倍増させながら、僕は彼女の後ろ姿をじっと見つめていたのだった。

つづく

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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