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文章と映像、その情報量、質の違いについて

先日、久しぶりに新幹線で出張に行きました。いつも旅のお伴に本を買って読むことにしているんですけど、今回は朝早くて本屋さんも開いてなかったので、電子書籍で購入。読んだのは吉田修一さんの『悪人』。出張の朝に何を読もうかとネットで検索してたらこの作品に引っかかりました。映画の方ですけど。妻夫木聡さん、深津絵里さんの表情に惹かれて、原作の小説を読んでみようかと。読んでみたらすごく面白くて、私にしては珍しく部分的にですが何度か読み返してみたりもした。その流れでアマプラで映画も見ました。感想文を手書きで書いてみましたが、到底まとまりそうにもない内容だったので、今回は1つの作品を文章と映像で体験してみた感想なんかを中心に書きたいと思います。素材は『悪人』ですが、ネタバレ、一切ありません。また、私は読書家でもないし映画ファンでもないので、軽ーい気持ちで読んでいただければ幸いです。


文章と映像の違い

小説は文字だけなので、基本、視覚的な情報は無い。なので、文字情報を頭の中で他の情報に変換してその世界観を楽しむことになります。視覚的な情報はもちろん、音や匂い、触感なんかも自分の中にある素材を基に擬似的に再現していく。自分というフィルターを通して映像化する作業っていうのかな。そういう観点でいくと、小説は読み手の中にある素材の違いで見えてくる世界が違う。登場人物の見た目や声、性格なんかも当然違ってくるんでしょうね。
それに対して映像は視覚的な情報がメイン。それと音。登場人物は当然、声で言葉を発します。あと、映像には音楽がついてきますね。流れている音楽がその場面で説明的に使われていたりして、視覚的な情報と同じくらい重要な役割を果たしている。文章を読むのと違って、映画では映し出される映像と音を受け手が受動的に処理していくことが多いと思います。

文章が読み手の内在的な情報量によって、解釈も含め、その世界観に幅があるのに対して、映像は風景や人物、音楽などが限定された情報として発せられるので、受け手の解釈、世界観は文章よりも制約されたものになると思います。


どちらが先が良いのか問題

映像化された小説を、小説と映像どっちから見るべきかって迷うところかもしれません。今回は最初に小説を読んで、その後に映画を見るという流れでしたが、映画では、小説の内容を省略、変更している部分が多いなって思いました。それは時間的制約もあるだろうし、映像として表現しにくい部分もあるからでしょう。だからと言って映画として、物語として物足りなさは感じたということは全くありませんでしたが、ストーリー展開も知っているし、登場人物の背景なんかも頭に入った状態で映像を追っていた。映像を見ながら、小説で得た情報で内容を頭の中で補いながら見ていました。
逆に映画から先に見ていたらどうだったろうか?その場合は、おそらく映画の雰囲気、登場人物の外観や声のイメージを持って小説を読み進めることになるだろう。そして、映画で見ていた各場面での登場人物の心の動きがこうなっていたのか、、、なんて解説書として、また答え合わせをしながら小説を読んでいたと思う。

どちらの場合でも、先に見たものの情報によって、次に見るものの見方が変わってくるのは間違いない。可能であれば、小説を読んだとしても一度脳内情報を消去して、真っ新な状態で映画を見ることができれば良いんですけどね。そんで、後で記憶を統合するみたいな。催眠術とかでなんとかできそうな気もする、、、知らんけど。


どっちも見た方が良いのか問題

そうなると、もうどっちかに絞って見た方がいいんじゃね?みたいな結論にも持っていけそうですよね。たぶん、どっちかだけ楽しむのも全然ありだと思います。それぞれが独立した作品ですからね。
私は今回、先に小説を読んで、しかも何度か読み返したんですけど、映画を見て初めてハッと気がついた部分もあったりなんかして、両方見て理解がさらに深まったと思ったんですね。同じ小説を読みながらも、私とは違った視点を映画監督が映像で提供してくれたという感覚。小説を読んで私が想像していた登場人物と、映画に出ていた役者さんのイメージの違いなんかもありましたが、そこはむしろ面白いなーと思って見てました。やっぱり、みんな違った世界観で物語を読み進めているんだなーと。でもやっぱり自分が頭の中で想像していた人物像や風景がしっくりくるという感じはありますけどね。
『悪人』は九州を舞台にした物語なので、方言に関しては文字を追ったところでそもそも話し方とかイントネーションとかまでは想像できなかった。その点、映画だと俳優さんが喋っているので、あー、こーいう話し方なんだなーって分かりました。やっぱり文章、映像にはそれぞれ得手不得手があるので、それぞれを補うように作品を鑑賞するのが良いのかもしれません。



おわりに

ということで、読書家でも映画ファンでもない私がそれぞれについて思うことを書いてみました。結論めいたものは特にないんですけど、まあ、どっちも楽しみましょうよ、という当たり障りのない感想で無理やりまとめておきます。
今の時代は、ネットに繋がってさえいれば電子書籍で本も読めるし、映画も見ることができる。時間に制約はあるとは思いますが、これからたくさんの作品に出会えれば良いなーと思っています。機会があれば、今度は映画を先に見て、その後に原作の小説を読んでみようかな。

最後に。吉田修一さんの『悪人』、とても素晴らしい作品でした。李相日さんの映像もすごく良かったと思います。有名作品なので私が言うまでもないと思ってますが、もしまだご覧になっていない方は、是非、ご覧になってみてください。

小説を先に読むか、映画を先に観るか、、、そこはみなさんのご判断。いずれにしても、脳内グルグルさせて楽しみましょう!


おわり

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