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花時雨

やんではまた、思い出したように降っていた雨も ようやくあがり、
公園の若葉も さらさらと風に揺れている。

春ちゃんはよく、玉子サンドを作ってきてくれた。
白地に赤いハート模様のある布で丁寧に包まれたそれは、
春ちゃんと言えば 目に浮かぶほどのお馴染みだった。

春ちゃんは、いつも にこにこしながら その包みをほどく。
その手元を、僕も にこにこしながら見つめる。
その春ちゃんが来なくなってから、もう長い月日が過ぎた。

料理本の一言一句も読みもらさず初めて作ってみた玉子サンドは、
春ちゃんの味とはどこか違うものだった。
春ちゃんは、なにか特別な作り方をしていたのだろうか。
それとも僕が そう感じるだけなのだろうか。
雨上がりのベンチに座り、どこか違う味の玉子サンドを食べながら
ぼんやりとそんな事を思っていた。
 
ふと、どこかで春ちゃんが肩をすくめ、小さく笑いながらこちらを
見ているような気がして辺りを見まわす…。  
風に遊ばれる おもちゃのバケツが、音もなく揺れているだけだった。

今ここで微睡めば、夢の中で会えるのだろうか… などと、
物語りにありそうな事を考えてみる。


赤いハート模様に包まれた どこか違う味の玉子サンドには、
桜雨の雫に舞った花びらが一枚、より添っていた。



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眠れない夜に

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