見出し画像

百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(八五、八六)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に染みついたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

だいたい週一回、まとめている。一つのnoteには、2首ずつ取り上げる。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて取り上げる作業は、連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

八五.俊恵法師(しゅんえほうし)

夜もすがら もの思ふころは 明けやらで
閨のひまさへ つれなかりけり

(よもすがら ものおもうころは あけやらで
 ねやのひまさえ つれなかりけり)

現代語訳

一晩中 悶える夜は 暗いまま
ベッドの向こうに 無情があるわ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

I spent the night in longing
but the day would not break
and even gaps in the shutters
were too cruel
to let in a sliver of light.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

解釈

 決着のつかぬ思いにいら立ちながら、夜明けを早くと思う不眠の思いが、下句にかなりリアルな実感としてある。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 男達の寂しい歌が続くとその後に突然、女の情熱的な恋の歌が登場するというのが、百人一首です。今までがそうでした。「だからひょっとすると」と思うと、出て来ました。「一晩中もの思いに苦しんでいるこの頃の日々。そういう夜は苦しくて、いつまでも暗く長い夜が続く。明け方の光がさせば落ち着くと思うのに、寝室の戸の隙間の向こうは暗いまま。ああ寂しい」です。暗い中で目が慣れて、寝室の風景はぼんやり見える。「あの人、来てくれないのかな」と思ってドアの向こうを見ようとして、その先には闇しかないことに気づく――どう見ても、恋に悶々とする女の歌ですが、作者は坊さんです。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

離婚する前、離婚してしばらくは、こういう気持ちも強かった。でも、閨の暇を埋めたら、埋めたで、別の労苦が待っているのよね、人生…。

八六.西行法師(さいぎょうほうし)

嘆けとて 月やはものを 思はする
かこち顔なる わが涙かな

(なげけとて つきやわものを おもわする
 かこちがおなる わがなみだかな)

現代語訳

「泣けとでも言うのか月は」と思っちゃう
文句の多い 俺の涙さ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

It is not you, Dear Moon, 
who bids me grieve 
but when I look at your face 
I am reminded of my love-- 
and tears begin to fall.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

解釈

 月の歌を多く詠んだ西行の「月前恋」の題詠。鳥羽院北面の武士であった佐藤義清(のりきよ)が、出家したのは二十三歳の時である。以後諸国を行脚して修行したことはよく知られているが、そうした中で詠まれた歌は後鳥羽院が「生得の歌人」と感嘆するような純粋さがあった。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

 西行法師の歌が一部で人気があるのは、この人の歌がわかりやすくて、悩み方も、「ああ、こういう悩み方をしたい」と思うようなわかりやすさを持っているからです。「かこち顔なるわが涙かな」の一節を覚えたら、この文句だけで一生我慢出来ます。西行法師は、「女になって恋を詠む」なんてややこしいことを絶対にしません。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

死ぬときは、西行の「願はくは花の下にて春死なむ その望月の如月のころ」を書きつけようと思っていた。中学の時、自分の座ってた椅子の裏に彫刻刀で、彫りつけた。あの椅子はどうなったろう。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。


いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。