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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(九、一〇)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に入ってきたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌時のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

noteで書くことに困った時にまとめようと思う。一つのnoteには、2首もしくは4首を取り上げたい。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら、意味のあるペアの形でインプットしたい。それが連作を作るアイデアにもなるかもしれない。


九.小野小町(おののこまち)

花の色は うつりにけりな いたづらに
我が身世にふる ながめせしまに

(はなのいろは うつりにけりな いたずらに
 わがみよにふる ながめせしまに)

現代語訳

花の色は 変わっちゃったわ だらだらと
ひとりでぼんやり してるあいだに

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

I have loved in vain
and now my beauty fades
like these cherry blossoms
paling in the long rains of spring
that I gaze upon alone.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

in vain / いたずらに、むだに、効果なく、軽々しく、みだりに
fades /fedz(米国英語), feɪdz(英国英語) fadeの三人称単数現在。fadeの複数形。(若さ・新鮮さ・美しさ・強さなどが)衰える
paling / péɪlɪŋ(米国英語) 動詞「pale」の現在分詞 青白い、青ざめた、(色が)薄い、薄い色の、弱い、薄暗い、活気のない

解釈

平安時代に「花」と言えば、「桜」のことです。「色」は、カラーではなく「様子」です。無意味に降る長雨のせいで、満開の桜はかなり散ったんです。もちろん、この「花」は小野小町自身のことでもあります。「世にふる」は、「世に経るーーこの世で生きる」で、「ながめ」は、「判断停止状態になってじっとなにかを眺めている」ーーつまり「物思いにふける」です。「桜は長雨で散った。それとおまじで、私も老けたーー美人であるのをいいことに、ぼんやりとしている間に」と。「美人の歌」としか言いようのない作品です。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

『古今集』の春を彩る紛々たる桜の散花は、むせかえるような春の息吹と、動きのある新鮮な感動を伝えるが、小町のこの歌はその中にしんと重たい沈黙をたたえて据えられている。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

美しい自分を自覚している人が老境に入って、嘆く歌。

一〇.蝉丸(せみまる)

これやこの 行くも帰るも 別れては
知るも知らぬも 逢坂の関

(これやこの ゆくもかえるも わかれては
 しるもしらぬも おうさかのせき)

現代語訳

これかいな 行くやつ帰るの 別れるやつ
知るのも知らぬも逢う 坂の関

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

So this is the place!
Crowds,
coming
going
meeting
parting,
those known,
unknown--
the Gate of Meeting Hill.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

párt・ing /‐ṭɪŋ(米国英語), ˈpɑ:rtɪŋ(英国英語) 告別、別離、死去、分岐点、分割線、髪の分け目

解釈

「逢坂の関」は、滋賀県の逢坂山にあった関所で、都から東へ旅する人はここを通ります。
 (中略)
こういう歌は、歌のまんま味わうべきで、訳してもしょうがないかもしれません。和歌は、「歌」なんです。歌舞伎の『勧進帳』では、冒頭でこの和歌を、そのまんま三味線の曲に合わせて歌います。それを聞くと、「ああ、歌だなァ」と思いますよ。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

この歌は初句から朗誦性に富むことばと調子をもっており、名高い歌枕となってゆく、その名もおもしろい「逢坂の関」を名所案内のようにうたい据えているところに、人気があったと思われる。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

確かに、意味よりも、音で覚えているような歌だ。でも、趣も感じる。英訳の難しいところ。英訳すると、意味を取らざるを得ない。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。


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