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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(七、八)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に入ってきたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌時のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

noteで書くことに困った時にまとめようと思う。一つのnoteには、2首もしくは4首を取り上げたい。2首ずつ取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら、意味のあるペアの形でインプットしたい。それが連作を作るアイデアにもなるかもしれない。


七.阿倍仲麿(あべのなかまろ)

天の原 ふりさけ見れば 春日なる
三笠の山に 出でし月かも

(あまのはら ふりさけみれば かすがなる
 みかさのやまに いでしつきかも)

現代語訳

大空を あおいで見れば 春日の地
三笠の山に 出た月がある

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

I gaze up at the sky and wonder 
is that the same moon
that shone over Mount Mikasa
at Kasuga
all those years ago?

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

gaze / géɪz(米国英語), geɪz(英国英語) (熱心にじっと)見つめる、熟視する

解釈

大伴家持の「銀河の歌」に続くのは、阿倍仲麿の「月の歌」です。
 (略)
百人一首は「歌合わせ」形式を持つのと同時に、並べられた歌の変化を楽しむ、連想ゲーム的な性格もありますが、六→七の展開はそれでしょう。
 (略)
月は東から出ます。中国の東は日本です。 (略) 三笠山は奈良の都の東にあって、月はそこから昇ります (略) 遠い中国から、日本の三笠山を眺めるのです。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

仲麿は養老元年留学生として渡唐し、ついに帰国することができなかった。
 (略)
天平勝宝五年(七五三)遣唐使の帰国に従って明州から船出しようとして、餞別の宴に臨み、月をみてうれしさなつかしさにこの一首をよんだという。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

帰ってこれなかった阿倍仲麿が、中国から、奈良の都の月を詠むというのは、なんとも胸が締め付けられるよう。英訳は「空を見上げると、昔、春日の三笠山を照らしていた月だろうか?」といった意味。橋本治さんの日本語訳より、しっかりと意味をはっきりとさせている。英訳に助けられるなぁ。同じ空の下、遠くの、故郷の、何かを詠むというのは、人の気持ちを揺さぶるのかもしれない。

八.喜撰法師(きせんほうし)

わが庵は 都のたつみ しかぞ住む
世をうぢ山と 人はいふなり

(わがいおは みやこのたつみ しかぞすむ
 よをうじやまと ひとはいうなり)

現代語訳

俺の家 都の東南 住んでます
名前はしかし ウジ山だってさ

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

I live alone in a simple hut
southeast of the capital,
but people speak of me as one
who fled the sorrows of the world
only to end up on the Hill of Sorrow.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

hut / hˈʌt(米国英語) (掘っ建て)小屋、あばら屋、(山の)ヒュッテ、仮兵舎
fled / fléd(米国英語), fled(英国英語) fleeの過去形・過去分詞
flee 逃げる、逃走する、逃れる、逃れ去る、(危険を避けて)逃げる、避難する、消えうせる、急速に過ぎていく、速く経過する
sorrows / ˈsɑroz(米国英語), ˈsɑ:rəʊz(英国英語) sorrowの三人称単数現在。sorrowの複数形。悲しみ、 悲哀、 悲痛、 悲嘆
sor・row / sάroʊ(米国英語), sˈɔːr‐(英国英語)/

解釈

「辰(たつ)・巳(み)・鹿(しか)」と、動物が続きます。でも、「しかぞ住む」は「鹿が住む」じゃありません。「然(しか)ぞ住む」で「こんな風に住んでいる」です。「どんな風に?」と聞いても、「ちゃんと住んでんだよ」以外に喜撰法師は答えてくれません。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

歌風は飄々とした洒脱さをもって知られていたらしい。しかし、造形的な古今時代の趣向の歌から見れば、少し物足りなかったのか、貫之は評して、せっかくの名月も趣深い暁方に雲がくれしてしまうようなところが残念といっている。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

笑いやしゃれに寄せていったような歌。深刻な歌、悲哀を感じされる歌ばかりじゃ疲れるだろうから、こういう歌も間に挟みたいし、たまに詠めるとよさそう。前の帰国が叶わなかった阿倍仲麿の歌があるので、ちょっと気分を変えるのにもよかったのかもしれない。英訳、憂しをsorrowとしたわけね、なるほど。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。


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