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百人一首復習ノート:現代語訳、英訳、解釈とその感想(一五、一六)

普段、現代語で短歌を詠んでいるのであって、文語に親しみたいわけでも、文語で短歌を詠みたいわけでもない。けど、永く日本人の体に入ってきたリズムで、教養ある人が一度は親しんだ(無理やり覚えさせられた)歌に接することには、意味があることかもしれない。

教養としてではなく、自分の作歌の養分と作歌時のテクニックという実利を期待して、いまさらながら百人一首を復習してみようと思う。情報は、手元にあった百人一首の本三冊から(『百人一首がよくわかる(橋本治)』『英語で読む百人一首(ピーター・J・マクミラン)』『百人一首 (平凡社カラー新書)(馬場 あき子)』)。

noteで書くことに困った時にまとめる予定。一つのnoteには、2首ずつ取り上げたい。2首、取り上げる理由は、百人一首が、二人ずつのペアが50組あるという作りだから。どうせなら、意味のあるペアの形でインプットしたい。歌をまとめて見る作業は、短歌の連作を作るアイデアにもなるかもしれない。

一五.光孝天皇(こうこうてんのう)

君がため 春の野に出でて 若菜つむ
わが衣手に 雪は降りつつ

(きみがため はるののにいでて わかなつむ
 わがころもでに ゆきはふりつつ)

現代語訳

君のため 春の野に出て 若菜摘む
わたしの袖に 雪はたっぷり

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

For you,
I came out to the fields
to pick up the first spring greens.
All the while, on my sleeves
a light snow falling.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

解釈

万葉の素朴に、姿の優美を加えたようななつかしさのある歌である。光孝天皇がまだ親王の頃、人に若菜を贈る歌である。不遇な親王の時代は長く、貧しく、五十代半ば、すでに世に埋もれようとしていた時、基経に擁立され帝位に上った。『大鏡』は大臣大饗に失態を演じた陪膳の者をかくしてやるため、やおら灯火を消した振舞のやさしさを記してとどめている。一首もそうした性情の反映したような味わいが、春雪の若菜をひときわやさしく感じさせる。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

感想

光孝天皇の人となりを知ると、余計グッとくる歌。英訳のほうは、袖が濡れて重くなっている感が薄い。そもそもそういう袖のある衣類を着てないから伝わらないのかな。

一六.中納言行平(ちゅうなごんゆきひら)

立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる
まつとし聞かば いま帰りこむ

(たちわかれ いなばのやまの みねにおうる
 まつとしきかば いまかえりこん)

現代語訳

行きますが 因幡の山の 峰の松
待つと聞いたら すぐ帰りましょう

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

英訳

Though I may leave
for Mount Inaba,
whose peak is covered with pines
if I have that you pine for me,
I will come straight home to you.

『英語で読む百人一首』©2017 ピーター・J・マクミラン /文藝春秋

pines /paɪnz(米国英語)//paɪnz(米国英語)/(…に)思いこがれる、 (…を)恋い慕う
pine /pάɪn/名詞【植物, 植物学】 マツ(の木).

解釈

業平の兄行平が因幡守として任地に行く時の歌、「去(い)なば」が「因幡」と重ねられることによって、軽快な洒落た味わいが生まれている。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』©1978 馬場あき子/平凡社

「転勤の挨拶」ですから、べつに凝ったところもありません。「いなばの山の峰に生ふる末」も特別なものではなくて、ただ、「あなたが待っていると聞いたらすぐに帰りたいものです」ということを言い出すための「待つ=松」です。松の木なら、日本中の山のどこにでも生えていそうで、転勤先が「信濃」なら、「立ち別れしなのの山の」にも代えられます。ただ、「いなば」の中には「往(い)なば」の意味も隠れていて、「因幡の国に行って来ます」の意味にもなるところが、オシャレです。

『百人一首がよくわかる』©2016 橋本治/講談社

感想

何でもないような歌に、掛詞が複数のっかる歌、現代の短歌だとどうだろう? わざとらしいかな。

※引用図書の紹介

『百人一首がよくわかる』

国語の教科書にあるような、文法的に正しい訳ではなく、短歌の長さ程度の軽妙な日本語訳と、短い解説書。

『英語で読む百人一首』

百人一首の英訳。古語や現代語訳より、歌の情景が浮かぶものも多い。

『百人一首 (平凡社カラー新書)』

馬場あき子先生の著作。ただし、教養としての解説であって、歌の解釈は短め。

いい歌を詠むため、歌の肥やしにいたします。 「スキ」「フォロー」「サポート」時のお礼メッセージでも一部、歌を詠んでいます。