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【観た映画】真夜中の虹(原題:ARIEL)/アキ・カウリスマキ

カウリスマキの『真夜中の虹』(原題:ARIEL)を観た。

閉山により失業した炭鉱夫が主人公のロードムービーであり、クライムアクションであり、ラブロマンスだった。

これまで観たカウリスマキの作品とは少し印象の違った作品だった。
主人公のカスリネンは感情と表情が豊かで、会話も多め、アクションシーンもある、比較的わかりやすい作品だと感じた。
(とはいえ、ちゃんとカウリスマキ味を感じる作品でもあった)

内容としては、カスリネンがとにかくツイていない。
不用心だし、すぐダマされる。
カッとなってすぐ手を出してしまうところもある。
この手の作品の主人公の典型的ムーブだが、
彼のおかげで物語はコロコロとよく転がっていく。

72分という短い作品な上に
物語の展開は早く、次から次へと転がり続けて、
ラストまであっという間だった。
色々なことが起きるので
振り返ってみるとそこまで短くは感じないのが不思議である。

ハッピーエンド風だが
希望がなくも思えるエンディングは
『パラダイスの夕暮れ』と共通しているなと思った。

また、感想以外に余談で語りたいことが多くあったので以下に書く。

◆余談1: フィンランドの住宅事情

労働者三部作ということだが、
カスリネンは冒頭で失業をした後はずっと無職で、たまに日雇いの仕事をするくらいだ。
代わりにヒロインのイルメリ(バツイチ・子持ち)が家のローン返済のために駐車監視員や精肉工場など色々と掛け持ちで仕事をしている。

シングルマザーで大してお金も持っていなそうな彼女がなんでローンを組んで家を買っているのだろう?と疑問に思い、調べてみると、
フィンランドの住宅事情は日本と少し違っていて、
「賃貸」と「持ち家」の他に「居住権住宅」というものがあるのだという。

「居住権住宅」とは、

その住宅価格の15%に値する費用を払えば、家賃相場の約70%程度の毎月維持費を払うことで、好きなだけずっと住んでいける制度

とのこと。

低所得者や高齢者、障がい者など収入が安定しない人たちが安心して定住できるようにするための制度らしいので、イルメリもこの制度を利用して、居住権住宅をローンで購入したのだろう。ちなみにこの制度には所得制限があり、金持ちは利用できない。

興味がある方は、以下の記事をご参照をば。

さらに、調べていると、持ち家の定義も日本と違っており、
ちょっと面白かったです。

◆余談2: 教会宿舎のキリストの絵の横に飾られた写真の人物は誰か?

全財産を奪われたカスリネンは、お金がないので安価で宿泊できる教会宿舎で寝泊まりをすることになる。
隣のベッドの人は熱心なキリスト教徒なのか、壁にキリストの絵を飾っていた。
そして、数日後、キリストの絵の横、カスリネンのベッドの側にはキリストの絵よりも大きなスキンヘッドで眼鏡をかけた男の写真が飾られていた。

Urho Kaleva Kekkonen

上記の画像は、映画で飾られていたものとは違うが、同じ人物の写真であり、同じように額に入れられており、イメージとしてはこんな感じだ。

この人は、ウルホ・ケッコネンといって、フィンランドの第8代大統領らっしい。1956-1982年の26年近く政権を担当していたすごい人のようである。
1975年にはヘルシンキにおいて全欧安全保障協力会議を開催し、その年の有力なノーベル平和賞受賞候補者となっている。

◆余談3: クネッケ

イルマリの家で朝を迎えたカスリネンがイルマリの息子・リキに起こされ、頼んだ朝食のパンが「クネッケ」だ。
ライ麦で作られたもので、北欧でよく食べられているらしい。
もしかしたら、日本でも有名なものなのかもしれないが、、
自分には珍しかったのでググって調べた。

ちなみに、リキがカスリネンを起こす方法とその後のやりとりが、一瞬ドキッとするが、結果的にものすごくかわいいので見どころのひとつである。

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