図書館に相談だ 『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

※ドキュメンタリーであってもネタバレは嫌、という人は回れ右。

気になっていたフレデリック・ワイズマン監督『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を鑑賞。ニューヨークの官民協業の図書館のドキュメンタリー、堂々の3時間25分、途中休憩付きである。

見ていて思いだしたのが、地域紙記者時代の図書館利用者の会の方とのやりとりである。そのとき市で実現した移動図書館車の意義が実はよくわかっていないと白状したら、呆れられた。いろいろ目移りする人間で、移動図書館車の小さな本棚では足りない、自分で車を運転して市の、県の大きな図書館に行ってしまう、という思いからの発言だったが、あれから幾年月。東京に出てきてみると、検索した蔵書を最寄りの分館に届けてもらうサービスをちゃっかり使っているので、まったくの不明であったとしか言えない。反省している。

本編では、少しの取りこぼしも見逃さないような勢いで、すべての人への情報アクセスを保証しようとする営みが映し出される。おそらく専門家による電話や窓口でのリファレンスサービス(中世英語は苦手ですがこんなことが書いてあります、とか、誰それの家系調査だったら入国日を特定して国勢調査に当たられたらいいでしょう、とかいきなり語り始める)、子どもの宿題からお遊戯に付き合い、パソコンやロボットの講座も開催、中国系住民へのパソコン講習、録音図書制作、点字の読み方講座・制作講座、手話通訳での感情の示し方実演、無線LAN装置の貸出などなどなど。

そもそも、たくさんの分館の中には黒人文化の図書館や、点字図書館などの専門図書館もある。

自分がこれからどんな境遇に陥っても、この図書館に駆け込めば、なんとかなるのではないか。実際に、図書館で就職フェアもやっていた。

そして、これらの活動を支えるスタッフのプロ意識。何かの機会につけて議員や住民と交流し、活動とその意義を伝え、あるいは巻き込み、活動に参加してもらったり寄付してもらえるように働きかける。市からも予算はもらえているが、いつも同じだけもらえるわけではなく、「持続可能性」を考えなければならない。活動が有意義であることも証していかなければならない。

そうして集めた資金を何に使うか。予約待ちが殺到している本につぎこめば、利用率は上がって受けはいい。でも、図書館としてこれから手に入りづらくなる本を収蔵するという使命を忘れてはならない。

また、すべての利用者に対してどのように扱うかということも問題になる。ホームレスが読書せずに寝ていたら出入り禁止にもできますよ、という意見の後で、できるだけ多くの人に使ってもらうという観点からは、そういうのは最終手段だ、そもそもホームレスの人への手当は市の重点政策だ、などとという意見もきちんと出る。

与えられた条件のなかで、その条件をできるだけよいものにしていこうと粘り強く、継続的に活動しつつ、何かを決めるときにはその都度、活動の本義、目的に戻って根本的に考え、議論していく。

この映画は、図書館はここまでできるのだということを知ってもらうために多くの人に見てもらいたいだけでなく、活動に疲れたNPO関係者に見てもらって、元気を充電してもらいたい。

そして、こうしたプロ意識の高いスタッフのおかげで日々動き続ける図書館で行われているのは、著者講演会、ミュージシャンのライブ、コンサート、トークショー、ポエトリーリーディング、ガルシア・マルケス『コレラの時代の愛』の読書会、シニアダンス教室などなど。参加者はみな、目がいきいきとして、ここは単なる書庫ではなく、人間がビビッドに活動する場所、生きる場所なのだということを実感する。

例えば、何十年にもわたってコレクション、ストレージされた写真ファイルを探索する芸術系の学生たちが映し出される。今まで名だたる芸術家がここで様々なイメージを渉猟して、自分たちの作品に活かしてきたという歴史も語られる。功成り名遂げた人が、自分の過去の文書を図書館で見つけていたことを目撃した図書館員の独白もあったり。

この映画を見てから、関連で菅谷明子『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―』(岩波新書、2003年)も一気読みしてしまった。こちらについては、「図書館でのし上がれ!」というテーマで一本書けそうなので、まだ後日にでも。

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