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あるいは(クロエ・グレース・モレッツがもたらす予期せぬ奇跡)

「お前の芝居、クロエ・グレース=モレッツに似てるんだよな」
あれは2016年。舞台稽古の真っ最中に、主宰兼演出の方に言われた言葉を今でも忘れない。
くろえ、ぐれーす、もれっつ。映画を観る習慣のない私ですら、名前を聞いたことのある役者だった。
「え、そうなんですか?」
ただ、映画を観る習慣がない私だ。くろえぐれーすもれっつさんがどんな芝居をする役者なのかわからない。当時の私は外国の方の顔を覚えるのが苦手だったし、顔すら曖昧だ。
「うん。体当たりな芝居が似てる」
それなのにその人はそう言った。
そう言われると彼女がどういう俳優なのか気になり出し、稽古終わりのその足でTSUTAYAさんに直行した。

5本1000円。わ、レンタルDVDってこんなに安く借りられるんだ。まずそこに驚いた。子どもの時分に両親とレンタルビデオ屋に行った時は、1本400円とか500円だった記憶がある。
『キック・アス』、『キック・アス ジャスティスフォーエバー』、リメイクの『キャリー』……。目についたクロエ出演作品をまとめてレジへ。
家に帰るなり、すぐにDVDをプレーヤーに掛けた。面白かった。
食い入るように3本一気観してしまった。
今まで映画というと、「主人公がトラブルに巻き込まれて、とにかく爆発とかを背にアクション立ち回りする(時々ロマンス)」みたいな大味なものばかりだと思っていたが、まったく違った。
テンポのいいコメディに、胸が苦しくなるスリラーに、様々なジャンルがあるではないか。
そんなのは当たり前のことなのだが、これまで映画に没入出来なかった私にとって衝撃的だった。
(唯一ティム・バートンの世界観だけは好きで、原作を務めた『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』や、同じヘンリー・セリック監督の『コララインとボタンの魔女』などは好きだったが。)

そんな偏屈な私が、ここへきてなぜ急にハマったのかは今でもわからない。その時のことを思い出してみれば、『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』のゲリゲロ棒が、小5で成長が止まった私の脳みそに刺さったからかもしれない。
さらに返却しに行った足で、また5本借りた。
結局“クロエ・グレース=モレッツの芝居”がどういうものかはなんとなくしかわからなかったけれど、“映画は面白い”ということだけは猛烈に理解したのだ。

そこから『セッション』『インターステラー』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』など流行り物を追いかけて銀スプレーを口内に吹き掛けたい欲に駆られたり(これは今も未達成)、イーライ・ロス監督作との出会いとなる『グリーン・インフェルノ』を観てお腹が空き、いい肉を食べに行ったりもした。
そうして「家で観てもこれだけ面白いんだから、劇場の大スクリーンとサウンドシステムで観たらどうだろう?」と映画館に足を運んだのが決定打となり、無趣味だった私に初めて、「映画鑑賞」という趣味が生まれたのだった。

のめり込むように1日2〜3本のペースで観ていくと、やがて映画のwebコラムを連載しないか?というお話が来た。
映画を観始めたばかりのこんなにわかオタクでもいいのだろうかという不安もありながらも、逆に今まで劇場で映画を観たことがない人にもこの素晴らしさを伝えたい!と思い、担当させていただくことになった。
コラムのタイトルは、『#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”』。
一時期のコメディ作品に見られた邦題に『俺たち〜』が付くアレと、敬愛するヒーロー・ロールシャッハが出てくる『ウォッチメン』に倣ったタイトルは結構気に入っている。

映画ナタリー『今宵も悪夢を』リレー連載中/SPICE『#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”』


年間150〜200本強と、観る本数はそこまで多くないし仕事が立て込むと観る(心の)余裕が無くなって途絶えてしまう時もある。
それでもありがたいことに、生配信、イベント、公式コメントなど、映画にまつわるお仕事にどんどん関わらせていただく機会が増えた。

『スター・トレック BEYOND』のジャパンプレミアにサイモン・ペッグ氏の来日が決まり、大ファンなんだどうしても取材させてくれとコラム担当に頼み込み、初めてサウンドバイツというものに参加した日は“嬉し死”するかと思った。

このために作ったお手製うちわ

ジャニコンばりのお手製推しうちわを持参し、「ペグちゃんと握手した手は洗わない!」とマネージャーに息巻きながら、家に帰って泣く泣くお風呂に入ったあの感じも、忘れられない思い出だ。
最近はそんな私のことを映画きっかけで知ってくださった方が、SNSでコメントをくれることも増えてきて、ネットを通じて作品の感想が言い合えるようにもなってきた。
なんという幸せなオタクなんだ。

「たった数時間の娯楽に1900円なんて高い、どうせすぐにレンタルで観られるんだし」という考えだった私が一転、
「良い映画は劇場で!」
「でっけぇモンが出てくる作品はでっけぇスクリーンで観ろ!」
「劇場にもお金を落とす!潰れられたら困るからコンセッションは絶対に利用するぞ!」
「気に入ったら盤は買え手元に残せ!配信なんて突然消えるぞ!」
「パンフレットはとりあえず買え!部屋のスペースは後からついてくる!」
という映画過激派(あくまで自分に対してだけで押し付けはしないのでご安心を)になるなんて、人生とはなんて予測不可能なものなのだ。

撮影の仕事に持ち込んだホラー映画の盤の一部


映画の魅力に気づいてもうすぐ8年目となる私の部屋には、大好きなホラー映画を主に盤のコレクション、パンフレットが詰まった本棚、ホラー映画のフィギュアやプロップがみっちり詰まったクローゼットがある。

ゲーム『倉庫番』のように巧妙に詰められている

そういえば私の芝居をクロエ・グレース=モレッツと称した演出家とは、最近『アラビアンナイト 三千年の願い』を観に行き、串カツ田中で飲みながらティルダ様の尊さと孤独について語り合った。
昨日は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』におけるミシェル・ロドリゲスの“良さ”をLINEでひとしきり話した。

映画はいい。
映画という共通言語があれば、人見知りでコミュ障な私もたくさん(興奮した早口で)人と喋ることができる。
知らなかった知識をくれる。
世界の解像度が上がる。
泣いて笑って怒って、たくさんの大好きが生まれる。
私も、まだ映画の面白さを知らない誰かのきっかけづくりができたらいいなと思う。
クロエに出会って私が変わったように。

お誕生日にいただいたケーキたち

#映画にまつわる思い出

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