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ベトナム人に習うホワイトで人間らしい働き方

 ベトナムの職場はとにかく賑やかだ。声が日本人より大きいというのもあるが、常に相談ともお喋りともつかない会話がそこかしこで行われている。朝の時間帯は午前中に飲むドリンクをチーム分注文する人が居て、どの飲み物にするかの相談に多くの時間を費やしているように見える。ドリンクを買う人は当番制ではないが、何となく阿吽の呼吸で毎回買う人が違うようになっている。大体「何飲む?」と聞いてくれて私の分まで注文してくれる。聞かれていなくてもベトナムのぜんざい?のようなChèがデスクにポンっと置かれて「あげる!」と言われることもある。ベトナム人は健康を祈る人が多いのか、食べ物をくれる時に"This food is Good for health"という人が多い。味付けが激甘なことを除けば、小豆や寒天のようなものが入っていて確かにそこまで体には悪くなさそうだ。果物ナイフを引き出しに仕舞っていて、家から持って来たオレンジなどを急に剥き始めてみんなに配ってくれる人もいる。とにかくよく喋りよく食べながら仕事をしている。その分、集中している時の密度が濃い。みんな真面目で自分の担当分野には詳しい。オンオフの切替バランスが見事なのだ。
 コロナ禍でハノイがロックダウンされた時、出社しないのにオフィスフロアを維持するのは費用がもったいないという事で、フロアの半分をレンタルしないことになった。ロックダウンが終わった後、出社と在宅勤務の日を各人半分ずつにするように会社から通達されたが、規則というわけではなかったので8割くらいの人が出社した。自宅で上司の目を気にせず悠々自適な勤務を選ぶと思っていたら意外だった。どうやらあのオフィスの賑やかさには意味があったらしい。同じフロアで、一緒に働く姿を見ているからこその連携が。同じ東南アジアのタイ・インドネシアでは在宅勤務を好む人が多いと聞いたので、ベトナム特有の現象のようだ。とにかく社員同士がいつも楽しそうで仲がいい。
 昼休みになるとわいわい楽しそうに、持って来た弁当を食べる。 初めてみる料理に食べ方で困っていると、「巻いてあげる!」「取ってあげる!」と前からも左右からも手が伸びてきてお皿の上が満杯になる。ベトナム人は親切で世話好きな人が多い。食べた後は、みんなサーっと解散してオフィスの各々の場所で昼寝を始める。椅子をつなげて横になる人、自席の椅子でひっくり返るように上を向いて寝る人、暗くした会議室でぐっすりの人(昼休み明けに会議がある時は電気を点けたらまだ人が寝ていてびっくりすることがある)。昼休みまでパソコンのマウスをカチカチしている日本とは大違いだ。私は2年ですっかりベトナムスタイルに染まり、朝にはコンビニで買ったオレンジをデスクで食べ、昼休みのデスクでの昼寝は日課になった。日本の上司・同僚からはさぞ自由に見えているかもしれない。しかし、2年間で獲得した人間らしい働き方を形だけでも手放したくなかった。
 日本では19時まで働くことはよくある。ベトナム駐在したての頃にダラダラと19時まで残業していたら、同僚のベトナム人に「大丈夫?終わらないの?」と真剣に心配された。私は惰性で残業癖が付いていたことに驚いた。特に何かが終わらなかったという訳ではなく、体のリズムにそれくらいまで働くのは普通(むしろ早い方)という感覚が染み付いていたのだ。ベトナムでは定時の鐘と共に席を立つ人が多い。もちろん〆切が近い仕事がある時は残って頑張っている人もいるが基本的に18時にはほとんどの人が帰宅している。何だか自分の人生が中心にあっていいなあと思う。よく食べよく喋りよく眠り、人間らしい生活があってこその仕事なのだ。

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