真・お店の未来は、そんなに変わらない。

前に書いたエントリーをもっと深く掘り下げてみる。

2018年9月6日3時過ぎ、北海道胆振東部地震で北海道中が停電した。
530万人が暮らす北海道のほぼ全てだ。
我が家も漏れなく停電した。

ガックリしながらも、人間だから腹も減るし、タバコや酒を飲んでやり過ごしたくもなる。

セブン・ファミマ・ローソンの大手3社は停電で営業できなかった。
営業できたのはセイコーマートだけ。
北海道は毎年、雪害に遭っているようなものだから、ちゃんと備えてあった。
発電機や自動車から電気を得て、必要最小限ではあるが営業できる環境がそこにはあった。
空調が利かない、蒸し暑くて暗い店舗の中でも手持ちのPOPを使って会計する様を、会計待ちに見て「人に優しいITってこういうアナログなこと」と強く思った。

セイコーマートで買った食品やタバコ、酒はアパートの人に配った。
当時40歳の俺が一番、圧倒的に若いのだ。
他は60代後半〜80代の高齢者のみ。
たった4世帯のアパートだけども、困った時はお互い様だ。
災害にあったときならば、尚更でしょ。

ITは便利だけど実は脆く、停電だけで普段の便利さとは真逆の不便さを生んでしまう。

近所のラーメン屋、普段ならば普通にこういう物を提供してくれる。

特にIT化はされていない、いつもニコニコ現金払いのラーメン屋だ。
アナログな店だ。
ポイントカードだってハンコでペタッと押すだけ。
店主の趣味で「店内のBGMがGLAYのみ」という変わった側面もあるが。
GLAYファンなら大歓喜。
あと、美味い。
ラーメン850円+チャーシュー丼350円。

で。
電気が復旧してすぐかな、2018年9月7日20時41分。
そのラーメン屋は開いていた。
ウチの近所は比較的早く、電気が復旧した。

いつもは「うぉっ、まぶし!」というくらいに煌々と明かりを照らしている店外照明は落とされていた。
復旧はしたけども、また停電するかも知れない状況だったから。

まあ、GLAYは流れてたけど。

食材も痛みやすい季節の9月初旬、いつまた停電するかわからないし、少ないけども500円でいいから食っていってくださいと。

美味かったんだよなあ。
その店で一番美味いと感じた。
やっぱり不安だし、凹むし。
それでもラーメンが食べられる。

嬉しいことじゃないの。
心意気ってやつが。
店の人にも家族がいて、自分の家があるのにさ。
それでも店を開いてくれているということがね。

なのでいつもより大きい声で「ごちそうさまでした!」と会計を済ませた。
500円玉1枚で。
その重さには僕の感謝も入っている。

繰り返すけども、日本は災害大国だ。
こればかりは仕方ない。
どうすることもできない。
日本でも地震リスクが最も少ないと言われてきた札幌でさえ、震度6弱まで揺れる。

ITにできることも沢山あるけど、ITにできないことも沢山ある。
東日本大震災のときもそうだったよね。
避難所の掲示板に「誰々は無事です!」と張り出されていて、それをTVで流してください!といったことも。

2016年の熊本地震でもインフラが寸断された。
ITだけでどうにかなる次元じゃない。
いくら情報が伝わっても、物流が寸断されると何もできない。

それに札幌と同じくらい地震リスクが少ないと思われていた大阪府北部でも去年、2018年6月18日に強い地震があったじゃないか。

お店の未来にITができること。
それは「ITが無くても強い仕組みを作ること」だと思う。
IT業者はITの脆さも知っている。
便利に振るのも結構だが、アナログでも大丈夫な強い仕組みを考える責務もあるんじゃないかな。

ITを振りまくだけがIT企業、関係者ではないよ。
Web万事屋(と言う名のディレクター)の僕もその端くれだし。
オンラインだけじゃなくてオフラインも見据えて考えていく責務を感じていたり。

LINEの原点は東日本大震災。
そのおかげでその後の災害でも安否確認や情報交換に於いて、存在感を大きく示したでしょ。
LINEはどんな状況でも必要最小限の情報を簡単に伝えることができる。
だから普及したんだ。

Twitterも同じ。
140字という制限があったからこそ通信負荷も少なく、当時の情報のやり取りに大いに貢献したんだ。
悲しいことが起きちゃったけど、笑ってもいたいじゃない。
情報ってのはそういう存在でもあると思うんだよね。

お店も同じだと思う。
物の販売と対価の支払いで成り立っている。
必要最低限でも経済行動ができるという在り方。
それをセイコーマートと近所のラーメン屋に見たんだ。

さて、このお題「これから「お店」はどうなっていく?」のエントリーにはこう書かれている。

Instagramから買い物ができるようになったり、在庫を持たないショールーム型店舗ができたり

そりゃあ便利になるのに越したことはない。
けれど、お店とはなんぞやと。

商品やサービスを実店舗で提供し対価を得る、それがお店の本質だと。

日本は先進国の中でも異質な存在だ。
アメリカ・カナダ・イギリス・フランス・ドイツ・イタリア・日本。
そこにロシアを加えてもいい。

他国とは文化も言語体系も非常に大きく異なる。
地震災害も尋常ではない。
イタリアもそういう面では同じだけども。ちょくちょく地震が起きる。

そもそもキャッシュレスの普及はクレジットカードが火をつけた。
世界一の経済大国のアメリカでさえ、数百$を持ち歩くのは危険だ。
だからクレジットカードが普及した。
VISAやMasterCardがアメリカで生まれた理由でしょ。

日本はどうだろう。
普通に数万円を持って歩けるし、それに対して身の危険を感じることは殆ど無い。
流石に10万円以上入った財布は落としたくないけどね。
だからといって強盗に遭うことは殆ど無い。

それに日本通貨の製造技術は世界一と言っても過言ではなく、ここ20年では「ウォン通貨を改変した偽500円玉」くらいだ。
また、日常的に現金に手を触れることが多いため、質の悪い偽札なら店員が簡単に見破れてしまう。

そもそも、円という通貨は異常に強い。

大災害が起きようが、原発が事故ろうが、ミサイルを発射されようが、円は買われている。
参照:「円」はなぜ安全資産と呼ばれるのか —— 日本が持つ世界最大の対外資産とは

しかも、為替市場における通貨別取引高に於いて米ドル、ユーロに次ぐ世界3位のシェア、約10%を持っている。
参照:日本円は1割 通貨世界シェアから考える外貨建て資産の重要性

米ドルもユーロも色んな国で使える。
ユーロは「欧州連合の通貨」であり、一国の通貨ではない。
その上、ドイツがユーロ圏内では一強の経済大国となっていて「一人勝ち」状態に拍車をかけてしまっており、当のドイツ政府ですら「我々の通貨は過剰に安い」と発言してユーロに対する懸念を抱えている。
ブレグジットもあり、ユーロという通貨は今、危機にある。

一方、円はそうでもない。
ほぼ日本国内でしか使われない。
災害リスクも群を抜いて高い国の通貨にもかかわらず、しかも使えるのは日本国内だけというにもかかわらず、円は異常に強い。

つまり、経済、お店という在り方が「世界と大きく異なっている」んだよね。
大きく異なっているからこそ、日本人特有の「付和雷同」が起きてしまい、それを劣等感に変換してしまう。

違う!全く違う!

日本の経済は日本の文化だ。
無理に変える必要もないし、世界に合わせる必要もない。
富の集中、貧富の格差の問題はあれど、それはどこの国にもある。
日本は日本のやり方で解決できる。
円という異常に強い異質な通貨を持っているんだから。

話をお店の未来に戻そう。
日本のお店はそういう経済基盤の上にある。
キャッシュレスは確かに便利だ。
小銭を浚う必要もないし、コンビニや交通機関の支払いもピッだけで済む。
ピッと。
一方、円という特殊な通貨があるから「手数料を取られたくないな」というお店の本音もある。
日本のキャッシュレスはここ20年ほどの短い歴史しかないんだから。

実際、行きつけの居酒屋も最初は電子マネーを取り入れていたけども、すぐに取りやめた。

理由は「そんなに単価が高い店でもないし、そんなにキャパがあるわけでもない。ウチくらいの店ならば現金で払えれるし、そういう要望も少ない。手数料もかかるし、帳簿も自分でつけられる範囲だから」というもの。

実家も居酒屋を経営していたが、機械音痴の母。
PCなんぞ使えないし、キーボードを押すことにさえビビる。
昭和28年生まれだもん、仕方ないよ。
それに上記と同じく「自分でやれる範囲」で経営していたから。
そんな母にIT導入しろ!とは言えない。
精神衛生上、よろしくないし。

それに超高齢化社会だ。
ITに明るくないアナログな人もいっぱいいる。
若い人でもアナログな人は一定数存在しているし。
その人たちを「便利だから」で、今すぐに切り捨てることができようか。

纏めると
 ・災害大国であること
 ・日本の経済基盤が特殊であること
 ・超高齢化社会であるということ

これらを踏まえて

お店の未来は、そんなに変わらない。

と断言する。
日本以外は知らんけどね。

もっと人に優しいお店が増えたらいいなと。