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一見欠点とみえる人間の特性「忘れる」ことの効用

 ぼーっとすることや、何も持たずにお散歩することで脳がリフレッシュし、創造性が回復する、という通説を聞いたことがあります。脳にはすさまじい記憶容量がありますが、無秩序に覚えられる短期記憶バッファは、ジョージ・ミラー先生が認知心理学実験で証明したように、7±2とごく小さかったり、何かのエピソードにかこつけて取り出さないと思い出せないなどの特徴もあります。中高年になると記憶しにくい、忘れっぽいというより、思い出しにくくなったり。「忘れる」仕組みはまだ未解明と思いますが、忘れることは何かの役に立っていたりはしないでしょうか?

 「(トロント大学の)研究では、人間の記憶は、価値ある情報を覚えて重要でないディテールは忘れてしまうことによって、基本的には重要なことのために場所を空けて、意思決定を最適化していると示唆。」

 エクセル表にしてしまうと、何百倍、何千倍も重要度が違うものが同列に、等質に並んでしまうので、一旦、頭に入れてかき回し、様々なものが下へと「沈殿」して、自然に軽重が付き、優先順位が決まるに任せることがあります。こんなことも、「忘れる」という人間の高度な能力の拡張、微細化により、自動優先順位付けという、生存に重要な役割を果たしているようにも思えます。そんな能力をAIに持たせようと研究している人はいるでしょうか。

 もちろん、何でもかんでも自然に忘れるのに任せていいということはありません。昭和時代は電話番号を数10本は記憶しておくことは普通で、ごろあわせを併用していたのをご記憶の方もいらっしゃるでしょう。魔法の数字7±2を駆使して、うまく意識上の記憶バッファ(まな板の上)を使うチャンキングにより、スピーチ、ビジネスプレゼンテーションで言い忘れないように工夫している人はいまでもいることでしょう。厳密な数字を要所要所で混入して、機械顔負けの正確さで証拠立てて議論することも時には必要です。映画「レインマン」でダスティン・ホフマンが演じたサバン症候群の自閉症の兄は、大きな爪楊枝の箱が床に落ちたのを一目見て「246 on the floor and 4 left in box.」(少し記憶が不確か(笑))と言いました。本当か?と思った弟役のトム・クルーズが横の看護師に「箱には何本入ってた?」と聞いたら、「250本」と回答。正解でした。こんな能力と引き換えに、通常のコミュニケーションが苦手になった面もあるのやもしれません。

 人類がさらに進化したときに、「忘れる」能力はどうなるでしょうか? AIの存在を遺伝子が感知して進化することがあり得るなら(高度な道具を使いまくっていればそれに適応した進化もあり得るでしょう!)、ますます「忘れる」のが得意な生き物に進化しているかもしれませんね!





 

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