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短編小説「果てのない学校の宇宙側」

 偏差値でいうと全くの真ん中。上でも下でもない、女子高。
 
 最近はうっすらと雪が積もったり止んだり。今日の昼は天気が良かったから、あらかた雪が融けた。でも、夜は流石に寒い。
 夜の校舎に何故あたし達六人がいるかというと……京(きょう)がどうしても欲しいものがあるっていうから、ついて来た。蓮(れん)はオカルトが好きな傾向があるから、心做しか肝試しのような雰囲気を作りたがっているように見える。月(つき)はお気に入りのポラロイドカメラを持ってくるつもりが、どうやらそのカメラが不調だったようで結局ぶーぶー云いながら手ぶらで来ている。玲(れい)は楽天的で、猫の鳴き真似が上手い。薫(かおる)は計画性の無いあたし達の中で、唯一懐中電灯を持ってきた参謀だ。明る過ぎない懐中電灯は、見廻り対策でもある。私立ではないから守衛が貼りついているわけではないとはいえ、最近はここらへんの地域も岐阜県警がうろうろ巡回している。全裸で徘徊する中年のおじさんをしょっぴくためだ、と、わりとポスターなんかも街中に貼られている。あー、やだやだ。
 あたし、光(ひかり)。何の取柄も無い、凡人。この六人の中では唯一ポニーテールにしており、ゆさゆさ揺れるそのしっぽを、玲(れい)や月(つき)がふざけて撫でてくる。そのじゃれ合いの中で、カメラが不調で傷心の月(つき)の機嫌が直ったようで、良かった。

 女子高の敷地には、既に入っている。
 月は雲隠れしている。この雲は、軈(やが)て雪をあたし達へ与えそうだ。風は無く、静かな夜。
「寒いねー。息が白ーい。」
 懐中電灯を持って先頭を行く薫が、何気なく言葉を漏らす。
「ごめんねー、付き合わせちゃって。」
と、云い出しっぺの京。
「ああ、そんな意味じゃないのよ。……それより、そろそろ〝入口〟に着くけど、目的地は?」
 薫が云う〝入口〟は、施錠された正面玄関のことでは、勿論、ない。一階の西の隅っこの廊下の窓の鍵が壊れていることを、あたし達は調査済みなのだ。
 京は十秒溜めたあと、こう云った。
「……更衣室。一階から入った後、校舎を東側まで進んで、体育館への渡り廊下の直前にある。」
 この女子高の校舎は電印(いなづまじるし)の様な構造になっているが(⚡)、別に防火シャッターが下りているわけではないので、遠くはあるが更衣室へ行くのに施錠上の障害は無い。
「へー。そこに心霊が……?」
 ニタリと笑む蓮(れん)の頬へ、にこやかな玲(れい)の拳がぺちっとツッコミを入れた。

 〝入口〟。

「じゃあ、入ろうか。少し高いけど、みんな大丈夫?」
 薫の問いに、
「一番運動音痴な私が入れたら、問題無い筈。私から行っていい?」
 と、京。薫は、
「分かった、じゃあ、わたしは〝入口〟を照らしておくね。最後に入るから、みんな入って。」
と云った。白い息がライトアップされている。

 京はハンカチで窓の桟を拭いたあと、〝入口〟が開くことを確認した。OK。あたし達五人は無事入り、薫も無事校舎入りした。


 

 その時だった。


 

「お前ら!!!!! 動くな!!!!! 岐阜県警だ!!!!! お前らだな、夜な夜な全裸で徘徊する独身男性六人組というのは!!!!! 今宵は女子高に侵入か!!!!! もう逮捕だ逮捕!!!!! 大人しく手を挙げて動──って、こら、そこの気持ち悪いロン毛のお前!!!!! うんこをするな!!!!!」


……ぶりぶり……ぷりゅ! ぷうすか……うぶぶぶぶぶぶぶぶ……ぶりぶりぶりぶりぶりぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぼんば! ぶうぱ! ぱぱぶりぶぶぱぶぱ! ぶぼっ! ぶぶぷすー! ぷうぶり! ぶう……もちもちみちみちみちぼぶぶぶぶりみぢみぢ! ぶうぱ! ぽう!

 
 

 あたしは、絶叫した。

 
 

「これはうんちではありません! 宇宙です!」

 

 次の瞬間、岐阜県警六十九名が、特殊警棒やさすまた、暴徒鎮圧用ゴム弾発射型機関銃や竹刀、木刀を手に、雄叫びを上げて突っ込んできた。



 
 
 
 

 ぶりぶり!



 
 


                           〈了〉

    非おむろ「果てのない学校の宇宙側」
              (短編小説)2022/12/30


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