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日本国憲法の原則、国民主権、基本的人権、平和主義の3大原則を徹底的に遵守なされようとする美しいお姿──矢部宏・須田慎太郎『戦争をしない国 明仁天皇メッセージ』

「戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、様々な改革を行って、今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し、かつ改善していくために当時の我が国の人々の払った努力に対し、深い感謝の気持ちを抱いています。また、当時の知日派の米国人の協力も忘れてはならないことと思います」

「日本は昭和の初めから昭和20年の終戦までほとんど平和な時がありませんでした。この過去の歴史をその後の時代とともに正しく理解しようと努めることは日本人自身にとって、また日本人が世界の人々と交わっていく上にも極めて大切なことと思います」
後者は今上陛下が(どうも明仁天皇というのは気になります。礼にかなった呼びがあるので……)日本軍の死者4万3千人、在留邦人の死者1万2千人、アメリカ軍の死者3500人、さらに900人を超えるサイパン島民の死者、「この戦闘では朝鮮半島出身の人々も命を落としています」とふれらた後におっしゃったお言葉です。

この本に収められてた多くの写真……。
沖縄のひめゆりの地、慰霊碑、サイパンのバンザイクリフ、さまざまな戦跡、中国、韓国の風景、そして東日本大震災の被害地、原爆ドーム……。、
春、秋皇居付近の美しい光景で始まり、植樹祭の写真で終わる美しい写真とともに今上陛下、皇后陛下のお言葉や和歌で編まれた一冊です。

写真の美しさもさることながら、それ以上に美しさや誠実さ、平和への希求と戦争の歴史を忘れてはいけないという強い意志を両陛下のお言葉に感じます。
少年時、疎開先で「なぜ、日本は特攻戦法をとらなければならないの」という問いに答えを窮した有末将軍の姿。そこになにかを感じられたのでしょう、戦後、棋士、米長邦雄の国旗掲揚、国歌斉唱を推奨(強制?)する言葉に
「やはり、強制になるということではないことが望ましいですね」と返答を陛下はされました。

かつてロラン・バルトは『表徴の帝国』で、日本では中心(皇居)に空虚な、何もない森だけの空間が存在し、(ヨーロッパ的な)意味から解放された独自の文化が日本にあるといっていました。〝意味という病〟に冒されたヨーロッパ近代に対比して独自な日本文化論を主張していました。もちろんこれは否定/肯定を超えた論議です。

それをもじって言えば、日本の中心には確固たる意思があるのだと思います。それは平和を希求し、自分(たち)の歴史を忘れずに進む、という意思なのではないかと思います。

本文中の写真、透明な青い海の中に半ば沈んで動かない戦車、空中戦で打ち落とされたのでしょうか海中に沈むゼロ戦という兵器、それを二度と動かしてはならない。けれど朽ちるままにして忘れてもいけない、そんなことを感じさせる本でした。
春・秋に皇居の一部を開放するというのも若き日の

「ぼくは皇居内に住みたくない。皇居はなるべく開放して、大衆向きの公園に使ってほしい。(略)天皇になっても、ぼくは街の中に住む」というお気持のあらわれなのかも知れません。法形式的には一貫して立憲君主ではあったとはいえ昭和天皇は〝大帝〟とでも呼びうる存在でした。今上天皇は文字通り憲法の落とし子であり立憲君主の真の姿なのかもしれません。日本国憲法の原則にある、国民主権、基本的人権、平和主義の3大原則を徹底的に遵守なされようとする……。

書誌:
書 名 戦争をしない国 明仁天皇メッセージ
著 者 矢部宏 須田慎太郎
出版社 小学館
初 版 2015年7月5日
レビュアー近況:十ン年振りに往復はがきを買いました。最近は懸賞や結婚式の案内もネット利用が多いのかもしれませんが、プレミアム商品券の応募など圧倒的に使用されている場面も。息の長い双方向通信ガジェットとして、FAXと双璧なのかもしれません。

[初出]講談社BOOK倶楽部|BOOK CAFE「ふくほん(福本)」2015.09.09
http://cafe.bookclub.kodansha.co.jp/fukuhon/?p=4062

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