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命のお話

私は普段 YouTubeや Instagramで自分の活動を紹介している。その背景にはナミビアの良いところを知ってもらいたいとか、特別支援教育の面白さを伝えたいなどといった想いがある。

しかし途上国に来ている以上、華やかな暮らしばかりではないのは当然だろう。少し重たい内容になるが、私が実際に直面し、感じたことをありのままに綴りたいと思う。

1.近所で起きた事件

ある日、近所のスーパーまで歩いて買い物に出掛けた時のことである。普段なら土曜日は人通りが少ないのだが、その日は通りにやけにたくさんの人が屯していた。
「いつもと違うな。」と感じつつも特段気にする事なく買い物を済ませ、買い溜めした食料で土日は引き篭もって過ごした。

月曜日になり出勤する。
朝は隣人が車で職場まで送ってくれるのだが、そこで土曜日の話題になった。

「なんかおととい土曜日にしてはたくさん人がいたね?」
「知らないの?すぐそこの角で人が殺されたんだよ。」

え?
英語の聞き取りの間違いだろうか。
驚きですぐには理解できない。

「え?マーダー(殺人)ってこと?」
「そう。従兄弟同士の喧嘩だって。」

2度目のリスニング。
今度は間違いない。
文字通り言葉を失ってしまった。

聞けばこの国では身近な知人同士の悲しい事件がしばしば起こるようだ。逆に経済的に追い込まれた末に起こる強盗の場合は命まで奪っていくことは少ないらしい。今回も、あくまでも一時的な感情で起きてしまった事件ということだった。
喧嘩に刃物を持ち出してしまえば親しい人に2度と会えなくなってしまうことは容易に想像がつく。その一瞬の怒りを乗り越えられなかった虚しさを想像して、なんだか物悲しい気持ちになってしまった。

2.同僚に起きた事件

そんな衝撃的な月曜日を迎えた私は職場の同僚にその話をした。すると同僚が悲しみを顔に深く浮かべながら話し出した。

「悲しい話が多いね。実は○○先生の息子さんが昨日亡くなってしまったんだよ。」

私は再び言葉を失った。
この○○先生というのは学校内では2番目の年長者であるベテランだ。その息子さんは20歳過ぎの快活な若者だったという。この土日に友人と出掛けた湖でボートに乗っていたところ、突風に吹かれて転覆してしまったらしい。

新聞の一面に載っているとの事だったので目を通すと、○○先生に目元がよく似た青年がボートを片手に抱えてポーズを決めている写真が載っていた。こんなに悲しい事故が身近な人に起きてしまう事に動揺した。

一週間後。
忌引きで休まれていた○○先生が職場に来て軽食を振る舞ってくださった。これがナミビアの風習で、日本でいう初七日にあたる葬祭の儀式なのだそうだ。

○○先生には一週間ぶりに会ったが普段と変わらぬ早歩きで生徒たちに気丈に声を掛けていた。堂々とされている。少し迷ったが私も彼に話し掛けた。

「この度はご愁傷様でした。今日は顔を見られて良かったです。お食事もありがとうございました。」

と、ここまで言って言葉に詰まる。
そんな私の様子を見て彼は優しく微笑んで言った。

「ありがとうMr.大久保。あなたの気持ちが伝わるよ。本当に不運だったけど、これが人生さ。」

...なんという強さだろうか。
御子息を亡くされてしまっていながらにして、これが人生だと言い切れるだけ懐の深さは私にはまだ備わっていない。

私は常々、年長者の方々には尊敬の念を抱いている。豊富な人生の経験値は何物にも代え難い独特な優しさをその人に纏わせる。この先生もまた、数多の人生経験を乗り越えてこれだけの人間的な強さ、深みを身に付けてきたのだろう。

先生のその微笑みを見てそれ以上なにも言えなくなってしまい、ただハグをして別れを告げその場を離れた。

1人になり、いただいた軽食を泣きながら食べた。

3.生きねばならぬ。

怒涛の土日、そして月曜日だった。
あまりに身近なところで立て続けに命の話を聞き、心が追いつかなかった。

そんな時に、日本で私の帰りを待つ家族や友人が言ってくれた言葉を思い出す。

「何でもいいけど生きて帰ってきてね。」

その意味がやっとわかってきた。
最初は「いやいやアフリカといえどそこに生きてる人達がいるんだから大丈夫だよ〜。失礼なこと言わないでよ〜。」くらいに思っていた。

どうやらそういう事ではなかったようだ。
我ながら考えが浅くてお恥ずかしい。

とかく人生はなにが起こるか分からない。世界のどこにいてもそれは関係ない。愛する人たちに生きてまた会えること、きっとそれ以上に尊い事はこの世の中には無いのだろう。

私のことを私以上に心配してくれる愛する家族と友人のためにも、この命を大切にしなくてはいけない。生きねばならぬ。

当たり前のことだが、
そう強く感じた出来事だった。

そしてもうひとつ。
日本にいるあなたへ。

どうかお願いだから私が帰るまで生きていてください。
よく食べてよく寝て、たまには運動してください。
災害の備えもして、寝るときは戸締りするんだよ。

1年後には帰ります。
それではまた会う日まで。

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