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【小説】 六時十度三百九m/s その4

 客は老若男女が入り混じっているが、その中に簡単に見るだけでも普通ではない奴が何人かいる。例えばスキンヘッドでサングラスの男。タンクトップが筋肉ではちきれそうである。コスプレで警備員の格好をしている男。露出が多く全体的に赤いキャバ嬢。
 搭乗券はあくまでランダムなので、二人組みは一切いない。皆一人である。
 雄太の視界の端にぽつんと立つ女がいる。同い年ぐらいだろうか、雰囲気は大学生のようである。ぞわっ。
 何故か分からないが雄太はその女が気になった。気になったというより得体の知れない恐れである。目が気になったのだ。知っている気がする。怖い。それ以外には特徴らしい特徴もなく、可愛いわけでもブスなわけでもなく印象に全然残らない。
 その数秒後、恐怖が何故か薄らいでゆく。勘違いでしたといわんばかりに女に対して逆に親しみを持ち始める。
 何故なのか。自分がよくわからなくなり、それを考えることはせず、もうすぐ始まる上昇について期待を寄せた。

#眠れない夜に

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