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今、町内会は一体どのような姿をしているのか?〜加入率/マンション/社会関係資本/地域を支える要因/支援者がすべきこと

 まちづくりに関する議論では、切っても切り離せないもの、それが町内会である。町内会とは一般的に、特定の範囲の地域を独占的に管轄することを特徴とする、地域住民の自主的親睦組織として知られる。だが、その全体像は実はあまり把握されていない。例えば、全国の町内会をとりまとめた帳簿というものも存在しない。国や自治体も、まちづくりの主要なプレイヤーとして期待する割に、その正体はよくわかっていないのだ。

 このことと並行してか、どうしても自分がたまたま接点を持った数少ない町内会の姿をサンプルとして、その可能性や困難を性急に一般化してしまう議論が後を絶たない。根拠となるサンプルを共有しないままの議論では、町内会に関する評価が分かれて当然だ。

 では、果たして今、一般論としての町内会はどのような姿をしているのか?という問いに答えを提供してくれるのが、辻中豊 他『現代日本の自治会・町内会-第1回全国調査にみる自治力・ネットワーク・ガバナンス』木鐸社、2009だ。先日、まちづくり支援者同士の勉強会で、この本を元にレクチャーを行った。この記事はその記録である。

 まず、本書に掲載されている調査の概要を記しておこう。調査主体は、筑波大学人文社会科学研究科の自治会・町内会調査グループ(文科省特別推進研究)。調査時期は2006年8月~2007年2月。調査対象は、自治会・町内会であるが、先述のように、全国の町内会を網羅する台帳は存在しないため、ここでは各市町村に調査協力を依頼し、市区町村内で無作為抽出された町内会を対象とした。配布数は33438件、回収数は18404件。回収率は55%と、かなり信用のおけるサンプル数が得られた。以下、本書の要点を記しつつ、報告者の雑感を添えよう。 

 まず、町内会の名称だが、実は、この時点でバラバラであることはあまり知られていない。内訳はこうだ。

自治会 41.8%
町内会 22.7%
区 13.2%
町会 6.0%
部落会 2.3%

 次に発足時期を見てみよう。一体、町内会というのはいつごろからできたものなのだろうか。

 最大のボリュームゾーンは「わからない」で42%。記録が残っていない程度に古いか、あるいは、会長に適切に継承されていないのか、事情は不明だが、そもそも町内会当事者自身がいまいち自分たちの来歴をわかっていないということは知っておいて良い。

一位:わからない(42.6%)
二位:1946年~50年(11.8%)
三位:戦前(11.2%)
四位:1966年~75年(10.0%)
五位:1956年~65年(8.6%)
六位:1996年~(4.8%)

 ちなみに、町内会の由来と歴史を大雑把に記しておこう。1940年に内務省「部落会町内会等整備要領」を発表、これによって従来からぽつぽつ存在していた地域組織が、都市部では町内会、非都市部では部落会に一元化された。呼び名や形成時期が地域によって異なるのは、こういう事情によるらしい。

 なお、現代的な町内会会が全国的に姿を現すのは第二次大戦中である。国家が国民の管理装置として地域組織を利用したことはよく知られている。1941年に翼賛体制が始まり、町内会は自治体の首長の指示命令権のもとにおかれることとなった。なお、この体制は、民主的な政治参加を妨げるものと評価され、1947年にGHQによる解散命令が下されることとなった。

 1952年に日本の主権が回復したあと、各地で徐々に自主組織としての町内会が復活してきた。1954年には昭和の大合併が行われ、各地の自治体の統合、再編が進んだ。行政の広域化は、エンドユーザーである市民とサービスとの距離を広げる。それゆえ、その間を補填する機能として、地域組織は当然ながら期待された。しかし、戦争の記憶もまだ新しい時期に、再度国家や自治体が町内会に直接関与することは強く禁欲された。そのため自治会長などを行政協力委員として委嘱する動きが全国で発生した。例えば、京都でも市政協力委員制度が1953年から始まっているが、それはこういう経緯による。

 1960年代には日本は高度成長を経験、都市化・工業化が加速し、農村から都市への人口移動、都市では過密が、農村では過疎が発生した。「隣は何する人ぞ」とよく言われるように、自治会が地域を代表する能力と、共助能力は失われてきたという。

 このことを背景として、1969年に自治省「国民生活審議会調査部会」答申が発表される。この答申では、自治会に代わる地域組織が提案された。その名も「コミュニティ」である。このとき、コミュニティとは、「生活の場において、市民としての自主性と責任を自覚した個人および家庭を構成主体にして、地域性と各種の共通目標をもった、開放的でしかも構成員相互に信頼性のある集団」(国民生活審議会調査部会編 1969: 7)と定義されていた。つまり国民生活審議会調査部会の報告においては、都市構造の変化によって分断し、無力や孤立を感じていた人々が、再度、共通の目標を持って連帯、協力できる「集団」こそコミュニティであった。以後、このコミュニティ形成は国家政策化され、自治体ごとに異なる解釈や新しい解釈を加えられながら、現在まで続いている。

 続いて、加入世帯数を見てみよう。町内会加入世帯数の平均値は228世帯。かなり多いように感じる。平均とは「全部足して、総数で割る」数なので、これは分布がなだらかである場合に一般的な姿を見るのに有効な測り方だ。では、世帯数の分布の場合どうかというと、100世帯未満の自治会で全体の47.3%とほぼ半数を占めている。この場合、世帯数が小さい方に大きく偏っているので、平均は標準的な自治会の姿を描くのにはアテにならない。なのでここでは最頻値、すなわち「一番多く出てくるパターン」を見ることにする。

 町内会加入世帯数の最頻値は20-39世帯である(2291自治会・12.4%)。ようやく、我々が知る町内会に近い姿が見えてきた。

 続いて、年間財政状況を見てみよう。当然ながら自治会の規模によって収入は異なるので、ここでは加入世帯ごとに中央値を見る。先述の通り、平均だと、高い収入を持つ一部の自治会が数値を釣り上げてしまう。その場合、中央値(データを小さい順に並べた時の真ん中に位置する数)のほうがより標準を理解するのに便利だ。

※()内に最大世帯数で頭割りした年額を付記
50世帯未満:44万円(8800円)
50~99世帯:95万円(9595円)
100~199世帯:145万円(7286円)
200~499世帯:246万円(4929円)
500世帯以上:490万円(1000世帯と仮定して、4900円) 


 町内会の収入源はどこか。ほぼすべてのクラスタで会費が60~69%を占める。そのほか、補助金や手数料などが若干ある 。

 本書では、町内会を「加入世帯数が多いか少ないか」「発足時期が古いか新しいか」の二軸で4つに分類している。それぞれの類型が、どういった自治体に多いかで便宜的な名前をつけている。まとめると以下の図表の通りになる。一言で町内会といっても、その姿は多様なのだ。

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 以下、本書では、この4つの分類別に自治会の姿を見ていくことになる。

 まず、自治会の自己認識を見てみよう。

■親睦
 村落型(54%)
 非都市新型(67%)
 都市旧型(61%)
 都市新型(70%)

■住環境維持
 村落型(59%)
 非都市新型(64%)
 都市旧型(62%)
 都市新型(67%)

■地域問題への取り組み
 村落型(30%)
 非都市新型(27%)
 都市旧型(33%)
 都市新型(30%) 

 このように、大半の町内会は、自分たちのことを「親睦組織」であると認識しており、地域問題解決のための組織であると認識するものは少数派にとどまる。国家や自治体はしばしば町内会に地域問題の解決主体となることを期待しがちだが、その期待は彼らの一般的な自己認識とずれていることがわかる。

 続いて、役員数を見てみよう。ここでは、会員に占める役員の割合(中央値)を参考としている。加入世帯数の大きい自治会ほど、役員数が多く、かつ、加入世帯に占める役員割合が低いことがわかる。組織が大きくなればなるほど、働き手は少なくていいわけだ。組織のスケールメリットが効くかたちだ。

50世帯未満では5人以下が59%(17%)
50~99世帯では6~10人が40%(11%)
100~499世帯では11~20人が36%(6%)
500世帯以上では21人以上が39%(2%) 

 続いて、会長選出方法を見てみる。会長は、どのクラスタでも、選挙での比率が高い(37~47%)。個性が出るのは以下の二つだ。

■役員会の推薦
 村落型(17%)、非都市新型(19%)、都市旧型(28%)、都市新型(27%)
■もちまわり
 村落型(21%)、非都市新型(17%)、都市旧型(7%)、都市新型(8%)

 これを見ると、会長は、都市部ではもちまわりではなく、推薦が主流だということがわかる。

 次に役員選出方法を見てみる。どのクラスタでも、もちまわりでの比率が高い(25~39%)。違いが出るのは以下の二つだ。

■選挙
 村落型(24%)、非都市新型(19%)、都市旧型(14%)、都市新型(14%)
■会長による指名
 村落型(13%)、非都市新型(13%)、都市旧型(28%)、都市新型(28%)

 役員選出についても、村落や非都市部のほうが選挙が多く、都市部ほど会長による指名が多い。本書では、以上の知見から、非都市部では全員参加的な民主制政治、都市部では会長や役員による寡頭制政治の傾向があると記している。しばしば私たちは、人の少ない村落部ほど、少数の権力者による政治が行われており、近代的な都市部ほど民主的な政治が行われていると思いがちだ。しかし、実際には逆であることがわかったかたちだ。

 今度は、自治会長のプロファイルを見ていこう。全クラスタでほぼすべて男性(95~97%)で、年齢も50代~60代(44~51%)が占める。自治会の長がおじさん、おじいさんのイメージになりがちなのは、根拠のない話ではなかったわけだ。

 特徴的なのは以下である。これを見ると、都市部ほど会長の高齢化傾向が強いことがわかる。

■50代未満
 村落型(26%)、非都市新型(27%)、都市旧型(11%)、都市新型(13%)
■70代以上
 村落型(22%)、非都市新型(26%)、都市旧型(40%)、都市新型(41%)

 さて、いよいよ加入率を見ていこう。自治体によっては町内会加入率を重要な成果指標としているところも多い。一体、多くの町内会にとって、加入率はどのようなものだろう。

 まず、いずれのクラスタでも、90%~100%加入と回答しているところが最も多い。想像よりも高い。しかしこれは、一般論としてほとんどの町内会の加入率が高いと言っていいのか、それともたまたま加入率の高い地域しか調査票を書かなかったか、ということはわからない。

 では、そんな中、80%未満の加入率だと回答するのは、どのようなケースなのだろう?クラスタ別に見ると、村落型(6%)、非都市新型(10%)、都市旧型(20%)、都市新型(20%)となる。加入率低下は都市部の現象といえる。

 加入率の低い自治会の特徴はどのようなものか。まず明らかになったのは、マンションなどの集合住宅数と単身世帯が多い傾向があることだ。具体的には、集合住宅が多いと回答する自治会は、加入率が80%未満の自治会では74%、それに対し、加入率100%の自治会では26% である。これは、多くのまちづくり支援関係者の間で経験的に言われている話と合致する。

 本書では、社会関係資本指数というものを調べている。社会関係資本というと、定義が様々にある言葉だが、本書では住民のつき合い度合い、新旧住民の交流の円滑さ、世代間交流の円滑さ、活動への参加の円滑さ、総会への参加率、清掃への参加率、お祭りへの参加率を代理変数として計算している。その上で、何が社会関係資本指数を高く保つのか。注目する代理変数は、自治体による支援の内容、自治会の活動や情報伝達の内容、人口の増減、集合住宅の数だ。

 結果は以下の通り。まず、自治体が年額30万円以上の補助を行うと関係資本が向上する(30万未満ではほとんど効果が見られない)。補助金額を削減したい自治体行政としては「わかっちゃいたけど認めたくない」事実だろう。じゃあなぜ補助金が社会関係資本を強化するのか。どうやら、親睦活動や対面的情報伝達の数が増えたり、活動施設の確保が行われたりすると、関係資本が向上するようなのだ。つまり、補助金を投入することで親睦事業が回るようになり、結果、社会関係資本が強化される、という因果関係が想定されるわけだ。

 面白いことに、人口が増加している地域では関係資本が低くなるが、減少している地域では関係資本は変化しない。人口増加は関係資本を弱くするが、人口減少は関係資本に直接影響しないのだ。

 また、集合住宅が多い地域ほど活動は活発化する傾向が明らかになっている。ちなみに、単身世帯の多さとの関係は見られない。さらに、都市部で新しく人口が流入しているほど活動が活発化している。ここは本書でも興味深い意外な発見として指摘されている。新しい人が流入することで活動は活発化しやすくなるのだ。しばしばマンションは町内会の加入率を下げる原因として嫌われがちだ。しかし、この調査が浮き彫りにしたのは、マンションができて人が増えると、地域活動は活発化するということだ。そして地域活動が活発化すれば、社会関係資本が強化されるわけだから、マンションを敵視するのは決してフェアな態度ではないということがわかる。

 町内会は様々な親睦活動で地域の社会関係資本を作っている。しかし、町内会単体ですべてをこなすわけではない。他団体との協力状況はどうか。すべてのクラスタで子ども会と老人クラブと連携が行われている(78%)。一方で、これらの団体を分化した他団体とカウントせず、内部組織と位置づけている町内会も多いことに注意が必要だ(子ども会63%、老人クラブ60%、青年団45%)。また、そもそもこれらの団体が存在していない場合、「連携が存在していない」ことにカウントされるため、連携せず、独立して活動しているのか、そもそも存在していないのかはよくわからない。

 興味深いのは、連携の発生パターンだ。どうやら、「その地域にどんな団体が存在しているか」に影響される傾向が見られるらしい。つまり「こんな問題があるから、こういう団体と連携しよう」ではなく「こんな団体とこんな団体があるから、こういう活動をしよう」という因果関係があるようなのだ。パズルのように、課題解決のために逆算的に活動を組み立てるというよりは、有るものを組み合わせてなんらかの価値を生み出すという意味では、ポーカーに近いかもしれない。

 町内会は、他団体と、どんな連携をしているのか。本書では、お祭りや清掃、防災、消防、安全など、取り組みテーマ別に連携の有無に注目している。地縁団体とは5~14%が連携し、祭りが最も多い。市民団体とは1~5%とほとんど連携していない。一番多いのは高齢者支援の5%。上位の連合会とは12~32%が連携しており、祭りが最も多い。

 自治会長のネットワークはどうか。全体傾向としては、知り合いであるという回答は、民生委員で85%、青年団・消防団役員で66%、PTA役員で65%、社会福祉協議会役員で60%。自治体の幹部で54%。議員で60%。市民団体役員では16%。

 つながりをつくる要因は、自営業を通じての商売上のつき合いや、自治会活動への参加が関係を作る原因となっているようだ。補助金はない場合よりある場合の方が、親睦活動が促進され、関係を作り易くなっているようだ。さらに補助金額は大きければ大きいほど連携は促されているようだ。

 市民団体、NPOとの連携に限って注目してみよう。NPO側は91%町内会と連携したいと考えている。一方で、自治会は44%しか連携したいと考えていない。むしろ積極的に連携したくないと答える町内会は47%ある。実際連携している町内会は30%にとどまる。

 NPOとの連携を妨げる原因は、自治会員の理解不足(40~43%)、費用負担(22~33%)や役割負担(16~33%)といった実務上の問題、そして考え方の相違(16~28%)といったものらしい。

 町内会はどんな活動をしているか。清掃と美化(88%)、高齢者福祉(66~78%)がメジャーだ。規模の大きい自治会ほど実施される傾向がある取り組みとして、交通安全(村落49%に対し都市旧型63%)、教育(村落26%に対し都市新型35%)が特徴的だ。逆に規模の小さい町内会ほど実施される傾向があるのが、伝統芸能保存(村落28%に対し都市新型12%)、選挙での候補者支持(村落が田26%に対し都市新型13%)、農林水産業の共同(農村27%に対し、都市新型3%)といった取り組みである。

 ちなみに、自治会活動が活発であるほど地域環境は良好であるという回答が多くなる(活発に活動するクラスタで66%、活動の少ないクラスタで51%)。それはなによりである。

 さてここまで、町内会の一般論的な姿を探ってきた。どちらかというと、達者にやっている町内会の姿が見えてきて安心する一方、まちづくり支援者としては、支援を必要とする町内会の姿も気になるところだ。本書では、自律的・持続的な運営に困難を抱えがちな町内会として、小規模・低加入率自治会の特徴を探っている。

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