烈空の人魚姫 第2章 嵐の日のポラリス号 ⑥テストマインドは・・・
カケルはなかなかデスク下から動けずにいた。
藍澤博士に見つかってしまって最初は驚いて固まったけど、今はそれだけで動けずにいるわけではない。
博士と会えた感動と緊張のせいで身動きが取れずにいたのだ。
(フレイム1号を取り上げてどうするつもりなんだろう)
カケルはふと藍澤博士がフレイム1号をどうしたのかが気になり始めた。
『ほんと、怒ってないから。出ておいでよ』
藍澤博士のその言葉を聞いて、カケルは観念した。
おずおずとデスク下から顔を出すと、思わず目を見開いた。
「・・・えええええああ?!!!」
目の前の光景を見て思わず声を上げる。
巨大な半球体のガラスでできた装置がカケルの瞳を捉えた。
その装置の中にはケーブルに繋がれて水中に浮いた状態のフレイム1号がいた。
カケルは思わず不思議な装置の前まで駆け寄った。
藍澤博士はようやく出てきたカケルを見てにやりと笑った。
『おめでとう、カケル君。君は幸運にもこの私の開発したシンクロシステムのテストマインドに選ばれた。君がこのフレイム1号と一緒に精神を同期させて深海冒険に出かけるんだ』
藍澤博士が急に厳かに言った。
『えっ、藍澤何言ってんだ。自分でやるって言ってたじゃないか』
結城博士は言った。
『気が変わったんです。私よりずっと連れ添った水中ロボットを持っているカケル君の方が親和性があるのではと思いまして』
藍澤博士はカケルの肩にそっと手を乗せた。クールな表情を浮かべたまま。
博士は何を考えているんだろう。
カケルは状況がよく読み込めずにその場に立ち尽くした。シンクロシステム?テストマインドって何なんだろう。水中ロボットのことをそれなりに調べていたカケルですら知らないワード。
僕の精神をフレイム1号とシンクロさせるなんてそんなことが可能なのか・・・?
『僕が・・・フレイム1号と一緒に冒険に出かける・・・?』
カケルはぐるぐると頭の中で整理しながらそう呟くことで精一杯だった。
『この装置、シンクロデバイスに搭載したシンクロシステムでカケル君の精神とフレイム1号を同期する。システムにアクセスすれば、フレイム1号を海中に潜航させると同時に君の精神も深海に行ける。安心して欲しいのは肉体はちゃんとこの地上にいて安全。行くのは精神のみさ。』
藍澤博士の言葉の温度が徐々に上昇していく。カケルに紹介するように、右手をばっとシンクロデバイスの前に右手を広げた。
『我々はレーザースキャナーと言って、レーザー光を使って海底の状態をスキャニングして明らかに出来るような研究をしているんだけど、今回私が開発したシンクロシステムはまだ試験段階でね。どうも私の精神とこのシンクロシステムの相性は悪いらしく同期がうまくいかなくてさ。・・・まあ、船酔いするせいだと思うけど。
そこでこの研究所に潜り込んでまで深海に行きたがってる君なら、このシンクロシステムとの相性もいいんじゃないかと思って閃いたんだ。
性能上、同期する者が本当に見たいもの、心の中に宿る情熱に呼応するように出来ているから。このシンクロシステムはね・・・レーザー光とも違う、操縦者の目が未知の深海を冒険する鍵になる。』
藍澤博士は真っ直ぐにカケルの目を射ながら力強く言う。
『このフレイム1号と一緒に、君の目で・・・深海を照らすんだ。』
僕の目で・・・深海を照らす・・・バブルを見つけることができるかもしれない。
カケルは心が震えた。
『見つけたいものがあるんだろう?深海で。私も君でこのシンクロシステムのテストさせてもらう。その代わり君はこの深海で見つけたいものに集中してくれて構わない。・・・で、答えは?イエス?』
カケルは小さく頷いた。まだ心臓がどきどきしている。
(藍澤博士は見つけたいものがある僕の情熱をわかってくれたんだ。)
そう思うとカケルはより一層胸が熱くなるのを感じた。満堂君はシンクロデバイスの方にゆっくり近づくとカケルの肩をぽんと叩いた。
『いぇあ〜、カケル君!これで人魚姫に会いに行けるね』
満堂君は嬉しそうな顔をしている。カケルは見つけに行きたいものがあると前置きしたのは自分だと思いつつも、見つけたいものが人魚姫であることを博士に知られてしまい少し恥ずかしい気持ちになった。
『へぇ、人魚?まあ、いるといいね。幸運を祈るよ』
藍澤博士は人魚という点にはさほど興味を示さないような表情をして、淡々とシンクロデバイスに繋がったパソコンに接続されたヘッドホンをカケルに手渡した。
カケルはヘッドホンを受け取ると深呼吸して、装着した。
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あらすじと登場人物
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