3、朝。

朝は毎日、6時半頃に起こされていたと思う。
2歳にして、寝起きはいつも、
悪いほうだったかもしれない。
なぜなら、
毎晩寝るのが遅くなりがちだったから。
起こされてぼんやりとした私を、
その後おじいちゃんが、
施設の4階、いちばん奥にある
大きな事務室に、
エレベーターを使って連れて行ってくれる。
そこで、少し先に見える教会の、
午前7時の鐘の音を聞くのが
いつもの私たちの日課だった。
鐘が鳴り終わるとほどなくして、
地下階の部屋に戻るのだが、
私はそこにひとり、よく残って、道草をくった。
4階の事務室の手前にある、
かくれんぼができるほどの広い会議室、
そのとなりの、小さな図書室にもよく行った。
置いてある本を開いては、絵を見ていた。
思い出すと ここで私は、
日本の絵本を見た記憶がない。
置いてあったのかもしれないが、
何故か記憶にあるのは、グリム童話と
ディズニーの絵本たちだった。
とくべつに思い出すのは
「101匹わんちゃん」で、
登場人物の悪女が
やたらに恐ろしかった。
陽当たりの悪い、
狭くて暗い図書室ではなおのこと、
怖い女に見えたのだと思う。

ひととおり 気に入りの本を見終わると、
私はひとり、地下の部屋へ帰っていった。
ひとりではまだエレベーターに乗れず、
大きな階段を、
手すりにつかまりながら降りていく。
朝なのに、階段はいつも、薄暗く見えていた。

部屋へ戻ると おばあちゃんが、
朝食の準備を済ませている。
私は、早めに戻らないと
おじいちゃんによく、叱られていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?