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味の素の23年3月期本決算を分析

国内調味料首位の味の素は、5月11日に23年3月期の本決算を発表しました。どんな業績だったのか、今後の見通しも含めて分析しています。


今期の事業利益1500億円へ

前期実績

ほぼ会社計画通りに着地しました。売上18.2%増の1兆3591億円、事業利益(※1)11.9%増の1353億円、経常利益14.3%増の1400億円、最終利益は24.9%増の940億円。なお固定資産売却益333億円を計上しています。

※1 売上から原価と販管費を引いて、持分法損益を加えたもの

出典:決算短信

今期予想

同時に今期の業績予想を開示しています。売上7.8%増の1兆4650億円、事業利益10.8%増の1500億円、最終利益1%増の950億円。

また配当金は前期6円、今期6円増配、今期の年間配当は74円としています。なお今期から配当を維持して増配を目指す累進配当を導入しています。

出典:決算短信

コスト増を打ち返して3期連続最高益更新へ

原材料高の影響を受けたものの増収増益を確保

味の素の前期実績は増収増益を確保したばかりか、売上・事業利益・当期純利益全て過去最高という素晴らしいものでした。原材料高によるコスト増を見事に打ち返したことになります。

為替影響を除いても、売上+8.5%、事業利益1%の増収増益です。当期純利益は遊休資産の売却益を計上した関係で大幅な増益になっていますが、それを除いても9%増益と申し分ありません。着実に売上と利益を伸ばしていることが分かります。

出典:決算説明資料

四半期で見ても売上が伸びていることが分かります。この1年間は全て二桁増収であり、トップラインがしっかり伸びているのは力強さを感じさせ好印象です。

出典:株探

次は事業利益の増減要因を見ていきます。

原材料高などで売上総利益332億円、販管費増で334億円の押し下げ効果を増収効果777億円で吸収し、144億円の増益になっています。

原燃料・食品原料コスト影響は第2四半期決算の時点では▲80億円でしたが、最終的には▲20億円まで圧縮されました。半年前の計算では通期で160億円のコスト増が発生するところを1/8の20億円まで減らしたことになり、適切に価格転嫁が行えていることを示しています。

出典:決算説明資料

貸借対照表も見ていきます。棚卸資産が2割ほど増加していますが、原材料価格等の上昇の影響によるものであり問題はなさそうです。

有利子負債残高 274億円減の3364億円
自己資本比率  47.1%→50.1%
DEレシオ      0.43倍→0.35倍

財務基盤が強化されていることが分かります。

調味料・食品セグメントは増益に転換

続いてセグメント別に見ていきます。味の素には主に調味料・食品、冷凍食品、ヘルスケアの3つのセグメントがありますが、いずれも増収増益を達成しています。

売上の内訳は調味料・食品が6割、冷凍食品とヘルスケアが2割ずつで、事業利益の内訳は調味料・食品が6割、ヘルスケアが4割となっています。これを見ると、売上の2割に過ぎないヘルスケアで事業利益の4割を稼いでいることが分かります。また収益性が悪化していた冷凍食品は黒字に転換しています。

出典:決算短信

セグメント別の事業利益増減要因を見ると、予想では1億円の減益になる見通しだった調味料・食品が17億円の増益で着地しています。原材料高の影響を最も受ける調味料・食品セグメントが、増益に転換したことはプラス材料です。

出典:決算説明資料

利益率は低下も早期の回復に取組む

次は利益率を計算してみました。

売上総利益率 37.05%→34.60%
事業利益率  10.51%→9.95%
営業利益率  10.83%→10.95%

コスト増の影響で売上総利益率と事業利益率は少し低下しています。それでも売上が伸びている限りは問題なさそうです。説明資料では原料価格の高止まりを見込みながらも、早期の事業利益率回復に取組むとしています。

出典:決算説明資料

国内海外増収も国内の調味料・食品と冷凍食品は減益

次は地域別に見ていきます。味の素は国内のほかアメリカ、アジア、欧州など世界中で調味料や冷凍食品を製造販売しています。地域別の売上高構成比率は以下の通りで、海外売上高比率は7割です。

出典:決算概要

海外はアジア23%、米州34%、EMEA(欧州、中東、アフリカ)23%と、単価上昇、販売数量増で売上が大きく伸びています。一方の国内は5%増収に留まっていて、ヘルスケア以外は前年比横ばいです。説明資料には調味料・食品の数量は前年比96%とあり、物価高による買い控えの影響を受けていることを窺わせます。

出典:決算概要

また事業利益は国内の調味料・食品と冷凍食品が減益です。これは原材料価格の上昇が止まることで、いずれは値上げが追いついて増益に転換するものと思われます。

最後に市場シェアも見ていきます。調味料はマヨネーズを除いて全て1位、素晴らしいです。市場独占力が高いということは値上げしやすいということで、味の素のブランド力の高さを示しています。

出典:決算概要

今期も増収増益を見込み事業利益二桁成長へ

より重要なのが今期の見通しで、予想は増収増益(新記録更新)です。

全てのセグメントで増収増益を見込み、原燃料高騰に対しての打ち返し、必要な値上げを断行することで事業利益1500億円に乗せる力強い見通しを示しています。必要な投資も行って事業利益成長二桁を計画しているとのことで、期待が膨らみます。

出典:決算説明資料

事業利益増減要因は以下の通り、売上増と構造改革によって売上総利益も増加に転じる見込みで、成長投資などで販管費増375億円をこなして、最高益を更新する計画です。

出展:決算説明資料

なお以下を前提にしています。

・足元のインフレの状況や為替、金利等の動向が今後も継続
・発酵原料やその他食品の原料コスト、燃料コストは高止まりが継続

これだけ厳しい経営環境を前提にしながらも、売上・事業利益ともに過去最高、しかも二桁の利益成長を計画しているのは頼もしいと言うほかありません。

2030年にROE20%、ROIC18%、EPS3倍を目指す

構造改革も着実に進んでいます。事業資産を圧縮することで資本効率が向上し、ROIC(投下資本利益率)は目標の8%を上回り10.8%まで上昇しました。また経営の上手さを示すROEは12.9%と高いのも好印象です。

出典:決算説明資料

3月に発表した中期経営計画「2030ロードマップ」では、25年にROE18%、ROIC13%、30年にROE約20%、ROIC約17%、EPS3倍を目指すとしています。EPS3倍はハードルが高そうですが、実際にこの3年間でEPSは5倍以上に成長しています、実現可能性は十分にありそうです。

出典:決算説明資料

逆風をはね返してさらなる成長を目指す

味の素の決算は、原材料高によるコスト増を見事に打ち返して増収増益で最高益更新、調味料・食品セグメントも増益に転換という力強い内容でした。

気になる24年3月期は、全てのセグメントで増収増益を見込み、事業利益は二桁成長で1500億円に乗せる力強い見通しを示しています。構造改革は着実に進んでいて、ROEは12.9%、ROICも二桁に載せ、中期経営計画「2030ロードマップ」では30年にROE約20%、ROIC約17%、EPS3倍を目指すとしています。また株主還元にも力を入れていて今期から累進配当を導入し、増配を予定しています。さらなる成長に株主還元と期待は膨らむばかりです。


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